・・・にかけた輪数珠を外すと、木綿小紋のちゃんちゃん子、経肩衣とかいって、紋の着いた袖なしを――外は暑いがもう秋だ――もっくりと着込んで、裏納戸の濡縁に胡坐かいて、横背戸に倒れたまま真紅の花の小さくなった、鳳仙花の叢を視めながら、煙管を横銜えにし・・・ 泉鏡花 「栃の実」
・・・がよかった、軒の下は今掃いた許りに塵一つ見えない、家は柱も敷居も怪しくかしげては居るけれど、表手も裏も障子を明放して、畳の上を風が滑ってるように涼しい、表手の往来から、裏庭の茄子や南瓜の花も見え、鶏頭鳳仙花天竺牡丹の花などが背高く咲いてるの・・・ 伊藤左千夫 「姪子」
・・・ こんな事を考えたのが動機となって、ふと大根が作ってみたくなったので、花壇の鳳仙花を引っこぬいてしまってそのあとへ大根の種を蒔いてみた。二、三日するともう双葉が出て来た。あの小さな黒の粒の中からこんな美しいエメラルドのようなものが出て来・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・ 光の加減で烏瓜の花が一度に開くように、赤外光線でも送ると一度に爆薬が破裂するような仕掛も考えられる。鳳仙花の実が一定時間の後に独りではじける。あれと似たような武器も考えられるのである。しかし真似したくてもこれら植物の機巧はなかなか六か・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ 光のかげんでからすうりの花が一度に開くように、赤外光線でも送ると一度に爆薬が破裂するような仕掛けも考えられる。鳳仙花の実が一定時間の後にひとりではじける。あれと似たような武器も考えられるのである。しかしまねしたくてもこれら植物の機巧は・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・インパチェンスは鳳仙花の類の一般的な名前らしいが、ともかくも「かんしゃく」である。ノリ・タンゲレは「さわられるのがいや」である。どんな植物だか知りたいと思いながら、ついついそのままになっていた。ところが、ここへ来てある朝「黄つりふね草」を見・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・芒の蓬々たるあれば萩の道に溢れんとする、さては芙蓉の白き紅なる、紫苑、女郎花、藤袴、釣鐘花、虎の尾、鶏頭、鳳仙花、水引の花さま/″\に咲き乱れて、径その間に通じ、道傍に何々塚の立つなどあり。中に細長き池あり。荷葉半ば枯れなんとして見る影もな・・・ 寺田寅彦 「半日ある記」
出典:青空文庫