・・・私として、どうして、それを黙視する事が出来ましょう。 しかし、私が閣下にこう云う事を御訴え致すのは、単に私たち夫妻に無理由な侮辱が加えられるからばかりではございません。そう云う侮辱を耐え忍ぶ結果、妻のヒステリイが、益昂進する傾があるから・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・ これは憂国の至情黙視しておられなかったのであるが、また彼の性格の如何に激烈で、白熱的であるかを示すものである。それにつけても今の日本の非常の時に、これほどの烈々たる情熱ある精神の使徒を私は期待することを禁じ得ない。 当局及び諸宗は・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・一日わが孤立の姿、黙視し兼ねてか、ひとりの老婢、わが肩に手を置き、へんな文句を教えて呉れた。曰く、見どころがあって、稽古がきびしすぎ。 不眠症は、そのころから、芽ばえていたように覚えています。私のすぐ上の姉は、私と仲がよかった。私、小学・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・ 作家たるもの、またこの現象を黙視し得ず、作品は二の次、もっぱらおのれの書簡集作成にいそがしく、十年来の親友に送る書簡にも、袴をつけ扇子を持って、一字一句、活字になったときの字づらの効果を考慮し、他人が覘いて読んでも判るよう文章にいちい・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・の説教を与え、勤労階級には『赤と黒』『リベラル』その他の猥本類似の刊行物を氾濫させ、新聞は用紙不足で半紙ほどのものにした支配者たちの文化政策にたいして、心ある日本の市民が黙視できないのと同じことである。 ゾシチェンコ、アフマートヴァなど・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫