・・・瀬古 そうしておはぎはあんこのかい、きなこのかい、それとも胡麻……白状おし、どれをいくつ……沢本 瀬古やめないか、俺はほんとうに怒るぞ。飢じい時にそんな話をする奴が……ああ俺はもうだめだ。三日食わないんだ、三日。瀬古 沢本・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・大きい鮟鱇が、腹の中へ、白張提灯鵜呑みにしたようにもあった。 こん畜生、こん畜生と、おら、じだんだを蹈んだもんだで、舵へついたかよ、と理右衛門爺さまがいわっしゃる。ええ、引からまって点れくさるだ、というたらな。よくねえな、一あれ、あれよ・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・――ほかに鮟鱇がある、それだと、ただその腹の膨れたのを観るに過ぎぬ。実は石投魚である。大温にして小毒あり、というにつけても、普通、私どもの目に触れる事がないけれども、ここに担いだのは五尺に余った、重量、二十貫に満ちた、逞しい人間ほどはあろう・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・やがて見ろ、脂の乗った鮟鱇のひも、という珍味を、つるりだ。三の烏 いつの事だ、ああ、聞いただけでも堪らぬわ。(ばたばたと羽を煽二の烏 急ぐな、どっち道俺たちのものだ。餌食がその柔かな白々とした手足を解いて、木の根の塗膳、錦手の木の葉・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・随分大胆なのが、親子とも気絶しました。鮟鱇坊主と、……唯今でも、気味の悪い、幽霊の浜風にうわさをしますが、何の化ものとも分りません。―― といった場処で。――しかし、昨年――今度の漂流物は、そんな可厭らしいものではないので。……青竹の中・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・あのあんこだて好ぎだべ。好ぎだて云え。こう云うごとほんと云うごそ実おみちは子供のようにうなずいた。嘉吉はまだくしゃくしゃ泣いておどけたような顔をしたおみちを抱いてこっそり耳へささやいた。(そだがらさ、あのあんこ肴にして今日ぁ遊ぶべじゃい。い・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・亮二が思わず看板の近くまで行きましたら、いきなりその男が、「おい、あんこ、早ぐ入れ。銭は戻りでいいから」と亮二に叫びました。亮二は思わず、つっと木戸口を入ってしまいました。すると小屋の中には、高木の甲助だの、だいぶ知っている人たちが、み・・・ 宮沢賢治 「祭の晩」
出典:青空文庫