・・・家に遺伝の遺産ある者、又高運にして新に家を成したる者、政府の官吏、会社の役人、学者も医者も寺の和尚も、衣食既に足りて其以上に何等の所望と尋ぬれば、至急の急は則ち性慾を恣にするの一事にして、其方法に陰あり陽あり、幽微なるあり顕明なるあり、所謂・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・その有様は、心身に働なき孤児・寡婦が、遺産の公債証書に衣食して、毎年少々ずつの金を余ますものに等し。天下の先覚、憂世の士君子と称し、しかもその身に抜群の芸能を得たる男子が、その生活はいかんと問われて、孤児・寡婦のはかりごとを学ぶとは、驚き入・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・たるまで、余が衣食住に苦しまずして独立勝手次第の生活をなし、なおその上に私塾維持のためにも、社員とともに多少の金を費したるその出処を尋ぬれば、商売に儲けたるに非ず、月給に貰うたるに非ず、いわんや祖先の遺産においてをや。本来無一物の一書生が、・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・ このような例は過去の文化上の貴重な遺産の整理ということについて、決して笑話に終らない本質をもっていると思える。 ドイツでは、大層盛大なワグナア祭典が行われていたり、ゲーテやシラーについて政府としての評価が語られたりしているようだ。・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・そして「文化遺産」「社会における作家の役割」「個人」「ヒューマニズム」「民族と文化」「創作上の諸問題と思想の尊厳」「組織の問題」「文化の擁護」の諸課題について討論されたのであった。 第二回の文化擁護国際作家大会は、一九三七年十月、内乱の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・机の引出しをあけて胃散を出してのんで、戦争の話をはじめた。「失業者の救済なんてどうせ出来っこないんだから、片っぱすから戦争へ出して殺しっちゃえば世話はいらないんだ」 極めて冷静な酷薄な調子で云った。「この社会には中流人だけあれば・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ギャングにさらわれ、波瀾の激しい日を送りながらも心の浄い少年が、ついに助け出され巨大な遺産を相続して旦那におさまれるのが、この世の現実であるならば、子供らにとって次第に荒いものとなるその生涯の路上で、堅忍であり、努力的であることも、いわばき・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・日本芸術の遺産の中で能は独特な評価をもってみられ、それがわかるのが文化を理解するものの当然の嗜みと考えられている。 それはそうあってさしつかえないのだと思う。でも、女店員がその謡曲による仕舞を稽古するということに果してどこまで働く女性の・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・文化擁護国際作家大会」を開催させた。会議はパリで開かれ、参集国は日本を除く二十八ヵ国、代表者は二百三十名。まことに興味ある次の如き議題で世界的に討論された。一。文化遺産二。ヒューマニズム三。民族と文化四。個人五。思想の尊・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・それは、偉大で才能ある過去、或は現在のブルジョア作家の一生とそこにのこされている文学的業績とから私達が遺産として価値あるものを獲て行こうと努力する場合、私たちの探求の中心は常にその作家の生活態度の中に現れ、従って各作品に鋭くふくまれて出てい・・・ 宮本百合子 「作家研究ノート」
出典:青空文庫