・・・殊に病気の時など医師に対して自から自身の容態を述ぶるの法を知らず、其尋問に答うるにも羞ずるが如く恐るゝが如くにして、病症発作の前後を錯雑し、寒温痛痒の軽重を明言する能わずして、無益に診察の時を費すのみか、其医師は遂に要領を得ずして処方に当惑・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ ゆえに政府たる者が人民の権を認むると否とに際して、その加減の難きは、医師の匕の類に非ず、これを想い、またこれを思い、ただに三思のみならず、三百思もなお足るべからずといえども、その細目の適宜を得んとするは、とうてい人智の及ぶところに非ざ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・わたくしには自己の意志と云うものがございません。わたくしは持前の快活な性質を包み隠しています。夫がその性質を挑発的だと申すからでございます。わたくしはただ平和が得たいばかりに、自己の個人性を全滅させました。それが大失錯で、夫の要求は次第に大・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・其処には燈火が半ば明るく半ば暗く照して居って、周囲の装飾は美しそうに見える。王は棺の中に在って、顔は勿論、腹から足迄白い着物が着せてあるところがよく見える。王の目は静かにふさいでいる。王は今天国に上っている夢を見ているらしい。此画を見た時に・・・ 正岡子規 「死後」
・・・一世に知られずして始終逆境に立ちながら、竪固なる意思に制せられて謹厳に身を修めたる彼が境遇は、かりそめにも嘘をつかじとて文学にも理想を排したるなるべく、はた彼が愛読したりという杜詩に記実的の作多きを見ては、俳句もかくすべきものなりとおのずか・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・まあそういうような理窟であるから従って僕は人間の意志の自由ということを許さない。右へ行くも左りへ行くも手を動かすも足を動かすも皆な意志の自由である如く思うているけれど、それも意志の自由ではなくて、やはり或る原因から右に行かねばならぬように、・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
時 一九二〇年代処 盛岡市郊外人物 爾薩待 正 開業したての植物医師ペンキ屋徒弟農民 一農民 二農民 三農民 四農民 五農民 六幕あく。粗末なバラ・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・ それから二三日たって、そのフランドンの豚は、どさりと上から落ちて来た一かたまりのたべ物から、(大学生諸君、意志を鞏固にもち給たべ物の中から、一寸細長い白いもので、さきにみじかい毛を植えた、ごく率直に云うならば、ラクダ印の歯磨楊子、それ・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・恋愛がそれに価いしないと云うのではなく、正反対に、本当の恋愛は人間一生の間に一遍めぐり会えるか会えないかのものであり、その外観では移ろい易く見える経過に深い自然の意志のようなものが感じられ、又よき恋愛をすることは容易な業ではないと感じている・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・ことばにつくせない犠牲をはらったドイツの民主主義のために、エリカ・マンの美しいエネルギーは、まだまだ休む暇はあたえられていないのである。 ふかい犠牲をはらった民主主義への道と書かれている内山氏の紹介の文章をよむとき、私たちの魂にひびく共・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
出典:青空文庫