・・・〔『日本』明治三十二年三月二十二日〕 曙覧が清貧の境涯はほぼこの文に見えたるも、彼の衣食住の有様、すなわち生活の程度いかんはその歌によって一層詳に知ることを得べし。その歌左に人にかさかしたりけるに久しうかへさざりければ、・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・そうだとすればおれは一層おもしろいのだ、まあそんな下らない話はやめろ、そんなことは昔の坊主どもの言うこった、見ろ、向うを雁が行くだろう、おれは仕止と従弟のかたは鉄砲を構えて、走って見えなくなりました。 須利耶さまは、その大きな黒い雁の列・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・そして、その疑問は、その単行本の後書きを読むと一層かき立てられる。「愛と死、之は誰もが一度は通らねばならない。人間が愛するものを持つことが出来ず、又愛するものが死んでも平気でいられるように出来ていたら、人生はうるおいのないものになるだろう。・・・ 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・戦争については周知のような態度であった尾崎士郎のような作家でさえ、あわただしい雑記のうちに、印象が深められずに逸走してしまう作家として苦しい瞬間のあることをほのめかしている。火野葦平が、文芸春秋に書いたビルマの戦線記事の中には、アメリカの空・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 二階の見晴しの部屋に、広業が松を描いた六曲の金屏風が一双あって、よく日に光っている。また、三間のなげしには契月と署名した「月前時鳥」の横額がかかげられている。これは恐ろしい雲の形と色とである。一緒に眺めていた栄さんが、広業って寺崎広業・・・ 宮本百合子 「上林からの手紙」
・・・男女の芸術家は、新しいタイプとして、旧い文士的環境とその雰囲気を一掃したもの、新しい民主的な社会生活建設における自分の役割を、はっきり知っている社会人として人生の上に立体性をもった人々であるべきではないでしょうか。 そういうふうにつきつ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 何だか漫然とした不安や焦躁を感じて、泣きむずかっていた子供を、一歩門の外へ連れ出してやれば、新らしい、珍らしい刺戟に今まで胸に満ちていたそれ等の感情を皆一掃されてしまう。 もちろん、これよりは深く、複雑な苦痛であったには違いないが・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 文学の大衆化を云うのであるならば、こういう生活と文学との古風な分離の常套感を、先ず人々の感情から一掃する必要がある。毎日の生活の中へ確かりと腰を据え、その中から描いてゆくこと。自分のこの社会での在り場所を、人及び作家としての気構えで統・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・世界の青年に告げて、未来の輝やかしい道から大量殺人を一掃するために、政治的意見、信教に関係なく団結せしめよ。世界平和大会はここに、平和の擁護こそあらゆる民族の義務であることを宣言する」と。そして、ポツダム宣言をはじめ世界平和のために役立つ協・・・ 宮本百合子 「わたしたちには選ぶ権利がある」
・・・ 六 社会への母心 去年の冬、私たちに忘られない経験を与えた木炭も、この秋からは切符制になって、不正と不安とを一掃する方策が立てられた。あらゆる面で、一般の生活の最低限の安定を保とうとする努力が、新しい政府へ向・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫