・・・笑ったが、マダムの窶れ方を見ながらでは、ふと虚ろに響いた。「なんだ、お知り合いでしたか、丁度よかった。じゃ忘年会ということにして……」 天辰の主人の思いがけない陽気な声に弾まされて、ガヤガヤと二階へ上る階段の途中で、いきなりマダムに・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ 豹吉はわざと大きく笑ったが、しかし、その笑いはふと虚ろに響き、さすがに狼狽していた。 ガマンの針助……。 この奇妙な名前の男について述べる前に、しかし、作者は、その時、「やア、兄貴!」 と、鼻声で言いながら、ハナヤへは・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・ 龍介は虚ろな気持で天井を見ながら「ばか」声を出してひくく言ってみた。「ばか!」少し大きくした。そしてその余韻をきいてみた。するときゅうに大きく「ばかッ」と怒鳴りたくなった。 女は無表情な顔をして酒を持って入ってきた。口の欠けた・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
出典:青空文庫