・・・平壌も今は王土ではない。宣祖王はやっと義州へ走り、大明の援軍を待ちわびている。もしこのまま手をつかねて倭軍の蹂躙に任せていたとすれば、美しい八道の山川も見る見る一望の焼野の原と変化するほかはなかったであろう。けれども天は幸にもまだ朝鮮を見捨・・・ 芥川竜之介 「金将軍」
・・・そこにはうす暗い空と水との間に、濡れた黄土の色をした蘆が、白楊が、無花果が、自然それ自身を見るような凄じい勢いで生きている。………「傑作です。」 私は記者の顔をまともに見つめながら、昂然としてこう繰返した。・・・ 芥川竜之介 「沼地」
・・・椿岳の泥画 椿岳の泥画というは絵馬や一文人形を彩色するに用ゆる下等絵具の紅殻、黄土、丹、群青、胡粉、緑青等に少量の墨を交ぜて描いた画である。そればかりでなく泥面子や古煉瓦の破片を砕いて溶かして絵具とし、枯木の枝を折って筆とした事もあ・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・又禹の治水にしても、洪水は黄土の沈澱によりて起る黄河の特性にして、河畔住民の禍福に關すること極めて大なるもの也。よく之を治するは仁君ともいふを得べし。然るに『書經』は支那のあらゆる河川が堯の時以來氾濫し居たりしに、禹はその一代に之を治したり・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・空はまっさおに、ビルディングの壁面はあたたかい黄土色に輝いている。 こういう光景は十年前にはおそらく見られないものであったろう。この二人はやはり時代を代表している。 ジャズのはやるゆえんである。 四 一週・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
出典:青空文庫