・・・「しかし叔父さんにも叔母さんにも内証ですよ」と言って、徳二郎は歌いながら裏山に登ってしまった。 ころは夏の最中、月影さやかなる夜であった。僕は徳二郎のあとについて田んぼにいで、稲の香高きあぜ道を走って川の堤に出た。堤は一段高く、ここ・・・ 国木田独歩 「少年の悲哀」
・・・』『いやじゃないが、今すぐと言うたところで叔母が承知するかせんかわからんじゃないか』『叔母さんがなんといおうとあなたがその気ならなんでもない、あなたさえウンと言えば私が明日にでも表向きの夫婦にして見せます。なにもここばかりが世界じゃ・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・「まるでだめです。」「でも四つ目殺しぐらいはできるだろう。」「五目並べならできます。」「ハハヽヽヽヽ五目並べじゃしかたがない。」「叔母さんが碁をお打ちになることは、僕ちっとも知りませんでした。」「わたしですか、わたし・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・いくら叔母さんが苛いったって雪の降ってる中を無暗に逃げ出して来て、わたしの家へも知らさないで、甲府へ出てしまって奉公しようと思うとって、夜にもなっているのにそっと此村を通り抜けてしまおうとしたじゃあないか。吾家の母さんが与惣次さんところへ招・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・「次郎ちゃんたちのかあさんが今まで達者でいたら、幾つになっていましょう。」 私がこんなことを言い出したのは、あの母さんとかつみさんといくつも年の違わなかったことを覚えているからで。「叔母さんですか。ことしで、ちょうどにおなりのは・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・当時、小さい女の子がひとり生れていましたが、夏休みになると、東京から、A市から、H市から、ほうぼうの学校から、若い叔父や叔母が家へ帰って来て、それが皆一室に集り、おいで東京の叔父さんのとこへ、おいでA叔母さんのとこへ、とわいわい言って小さい・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・よその叔母さんたちの買うものを、私も同じ様に買って帰るだけです。あなたが急にお偉くなって、あの淀橋のアパートを引き上げ、この三鷹町の家に住むようになってからは、楽しい事が、なんにもなくなってしまいました。私の、腕の振いどころが無くなりました・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・「ええ。叔母さんが毛布を持って来て、貸して下さいました。」「どうだい、みんないいひとだろう。」「ええ。」けれども、やはり不安の様子であった。「これから私たち、どうなるの?」「わからん。」「今夜は、どこへ泊るの?」「そ・・・ 太宰治 「故郷」
叔母さん。けさほどは、長いお手紙をいただきました。私の健康状態やら、また、将来の暮しに就いて、いろいろ御心配して下さってありがとうございます。けれども、私はこのごろ、私の将来の生活に就いて、少しも計画しなくなりました。虚無・・・ 太宰治 「私信」
・・・ご近所の叔母さんたちが、おお綺麗と言ってほめると、ここの主人が必ずぬっと部屋から出て来て、叔母さんたちに、だらし無くぺこぺこお辞儀するので、私は、とても恥ずかしかったわ。あたまが悪いんじゃないかしら。主人は、とても私を大事にしてくれるのだけ・・・ 太宰治 「失敗園」
出典:青空文庫