・・・高野岩三郎氏が死去されたのちNHKの会長となった古垣鉄郎氏は、英語もフランス語も達者であろうし、行儀がいいことが必要な時と場合の分別もあり、貴族院議員だったし、文化人であろうけれども、NHKは、新会長によって会長流民主化におかれざるを得ない・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・近い屋根屋根の波の面白さ、それから段々と低くなって並木通へ視線が導かれ、そこに在る点景の白い婦人の姿を中心として一層ひろい海面へのびてゆくリズムは実に変化と諧調に富んでいて、眺めていると複雑にとらえられている角度や線の交錯から、その海辺に都・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・その特殊な条件をもつ短い時期のうちにおこった一つ二つのエピソードを中心として、この作者の全心から流れ出す初々しい生の感覚と愛の諧調で全篇がつらぬかれている。おのずからなる抒情的でメロディアスな筆致は、わたしの作品の全系列の中にあっても類の少・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・新響の放送であろうと思われるような交響楽が鳴り出して、諧調ある美しい音に神経が突然快くゆるめられたと思う間もなく、「ああ打ちました! 打ちました!」などと叫ぶアナウンサアの声がわり込み、音楽と野球実景放送とがしばらくあやめも分らずもつれ合っ・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・灰色と薄桃色と黒との諧調で独特に粋な感覚の世界をつくったマリー・ローランサン。しかし、ケーテ・コルヴィッツの存在はドイツの誇りであるばかりでなく、その生涯と労作とは、決してただ画才の豊かであった一人の婦人画家としての物語に尽しきれない。ケー・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
一九二二年五月 或午後、机に向って居ると、私の心に、突然、或諧調のある言葉が、感情につれて湧き上った。 丁度、或なおしものの小説を始めようかとして居、巧く運ばないので苦しかったので、うれしく其を書きしるした。 ・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・ この一つ二つの手紙の中で今年出来たものをみんなおみせして新年は新しい諧調をもってはじめたいと思います。風邪はお気をつけになって。 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ツで日本は世界の最前列に伍していることや、所謂躍進日本の他の一面としての文化紹介を欲する政府当局の意嚮などが、外務省文化事業部へ反響して、先ず国際文化振興会が半官的な組織で成立し、つづいて島崎藤村氏を会長とする日本ペン倶楽部が組織された。・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・いい芸術品のふくんでいるこの音楽のようなコンソレーション・人間苦と悲しみとの裡から猶響いて来るこの集注と発展の諧調はどこから生れるのだろう。 この間、アランの『文学語録』という本を頂いた。はじめの方に散文と詩とのことが語られていると・・・ 宮本百合子 「作品のよろこび」
・・・ 其と同時に、此の騒音の最中から、何等の諧調を求めて、微かながら認め得た一筋の音律を、急がずうまず辿って行く、僅かながら、高く澄んだ金属性の調音も亦、天の果から果へと伝って参ります。 日本にも馬鹿は居ります。アメリカにも大馬鹿が居り・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫