・・・平たくいうと、当時は硯友社中は勿論、文学革新を呼号した『小説神髄』の著者といえども今日のように芸術を深く考えていなかった。ましてや私の如きただの応援隊、文壇のドウスル連というようなものは最高文学に対する理解があるはずがなかった。面白ずくに三・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・日本の文化を根本的に革新するには先ず人種を改造するが先決問題であるというが博士の論旨で、人種改良の速成法として欧米人との雑婚を盛んに高調した。K博士の卓説の御利生でもあるまいが、某の大臣の夫人が紅毛碧眼の子を産んだという浮説さえ生じた。・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・彼は天然はまた彼にこの難問題をも解決してくれることと確信しました。ゆえに彼はさらに研究を続けました。しかして彼の頭脳にフト浮び出ましたことはアルプス産の小樅でありました。もしこれを移植したらばいかんと彼は思いました。しかしてこれを取り来りて・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・極端なる苦痛は最後に確信と光明を与えると信ずる。 今度の戦争の事に対しても、徹底的に最後まで戦うということは、独逸が勝っても、或は敗けても、世界の人心の上にはっきりした覚醒を齎すけれども、それがこの儘済んだら、世界の人心に対して何物をも・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・またこの革新的気分と、人生的の感激を有しないセンチメンタリズムが詩を綴っていたら詩の精神を有しないばかりでなく、常に、新生活創始に先駆たるべき文化の精神を、誤るものだということを憚らないのであります。 詩の誤解されていることも久しいけれ・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
・・・彼等はそれによって、芸術的、社会革新の信念を得ようとします。同じ人類の理想、思想の下に結合しようとします。それが最初少数の信者であったにしても、その熱意の存するかぎり、永久に働きかけるものです。真の芸術の強味はこゝにあります。芸術戦線の戦士・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・ 正直と善良とがあれば、物静かな村の生活でも、虚偽と浮薄が風をなす、物質的文明で飾られた大都会の生活よりは、遙に貴いと確信される如く、悪人がいかに外面に美しく飾っても、畢竟、善い人間とはならないようなものであります。 地上に生れて来・・・ 小川未明 「草木の暗示から」
・・・そして、また気候の変化したる幾万年の後に至るも果して、今日の如く、人類がこの地球の征服者であると誰が確信するものがありましょうか。適者生存は、犯し難い真理であります。驕る者久しからず、これを思えばもっと人間は、動物に対して、親切であるべき筈・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・その存在は、たとえ、小さな火であっても、いつか人生の核心を焼きつくすに足るからである。 毎日、幾何の人間が、深き省察のなかったがために、また自からを欺いたがために社会の空しき犠牲となりつゝあるか。そして、彼等の狂騒と私等は、この人生にと・・・ 小川未明 「名もなき草」
・・・ こうした涙ぐましい、謙譲にして真摯の芸術こそ、今日のような虚偽と冷酷と圧迫と犠牲とを何とも思っていない時代によって、まさしく正しい人々の胸に革新の火を燃やさずには措かないのである。トルストイの芸術がやはりそれだと思うのであります。・・・ 小川未明 「民衆芸術の精神」
出典:青空文庫