・・・芸当というのは、別荘の側で、後脚で立ち上がって、爪で入口の戸をかりかりと掻いたのであった。最早別荘は空屋になって居る。雨は次第に強くふって来る。秋の夜長の闇が、この辺を掩うてしまう。別荘の周囲が何となく何時もより広いような心持がする。 ・・・ 著:アンドレーエフレオニード・ニコラーエヴィチ 訳:森鴎外 「犬」
・・・松魚の刺身のつまに生のにんにくをかりかり齧じっているのを見て驚歎した自分は、自宅や親類の人達がどうしてにんにくを喰わないかと思って母に聞いたら、あれを食うと便所が臭くなるからいけないと云うことであった。重兵衛さんの家では差支えのない事が自分・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
出典:青空文庫