・・・柔らかい若葉の豊かな湧き上がるような感触は、――ただこの感触の一点だけは、――油絵の具をもって現わし難いところを現わし得ているように思われる。また川端氏の画と違って光や空気に対する注意も幾分か現わされているようである。しかし若葉を緑色の塊と・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・ が、この時の驚嘆の情は、ただ自然物としての蓮の花の形や感触によってのみ惹き起こされたのではなかった。蓮の花の担っている象徴的な意義が、この花の感覚的な美しさを通じて、猛然と襲いかかって来たのである。われわれの祖先が蓮花によって浄土の幻・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
・・・おほどかに日のてりかげるげんげん田花をつむにもあらず女児らさきだつは姉か蓮華の田に降りてか行きかく行く十歳下三人という一連の歌などは、ほとんど強い酒のように、わたくしを蓮華草の花の匂いや感触や、ふくふくと生い茂った葉の肌ざわり・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・ わが心霊は肉の痛苦に感触しない。ただ霊の本能に従って思うがままに動く。かの熱烈なる殉教者に見よ。バイロンは「シーヨンの囚人」に七人の雄大なる兄弟を画いた。物暗き牢獄に鉄鎖のとなりつつ十数年の長きを「道義」のために平然として忍ぶ。荘厳なる心・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫