・・・それがこのごろでは、国民思想涵養の一端というのであろうか、警察の許可を得て、いつのまにか復旧されて来たように見えるのである。 H温泉旅館の前庭の丸い芝生の植え込みをめぐって電燈入りの地口行燈がともり、それを取り巻いて踊りの輪がめぐるので・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・物理学上の問題としては、地殻岩石の弾性に関する各種の実験のごときは極めて肝要なるべし。一方においては統計的にいわゆる第二次原因の分析を試むるも有益なり。しかれども統計に信頼するためには統計の基礎を固むる必要あるべし。普通公算論の適用さるる簡・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・それで、負惜しみのようではあるが、物理学を専攻する人間でも、座談や随筆の中ではいくらか自由な用語の選択を寛容してもらいたいと思うのである。 この抗議のはがきの差出人は某病院外科医員花輪盛としてあった。この姓名は臨時にこしらえたものらしい・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・これはやはり人間、というよりむしろ私の言語の不完全のせいだとして読者の寛容を祈る事とする。 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・賢明なる読者の寛容を祈る。 寺田寅彦 「スパーク」
・・・だらけのだらしのない弟子たちに対して、真の慈父のような寛容をもって臨み、そうしてどこまでも懇切にめんどうを見てやるのに少しも骨身を惜しまれなかったように見える。自分がだらしがなくて、人には正確を要求する十人並みの人間のすることとは全く反対で・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・今からその時に備えるのが、何よりも肝要である。 それだから、今度の三陸の津浪は、日本全国民にとっても人ごとではないのである。 しかし、少数の学者や自分のような苦労症の人間がいくら骨を折って警告を与えてみたところで、国民一般も政府の当・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・読者の寛容を祈る外はない。 中学校の五年で『徒然草』を教わった後に高等学校でもう一度同じものを繰返して教わったので比較的によく頭に沁み込んでいると見える。その後ほとんどこの本を読み返したような記憶がなく、昔読んだ本もとうの昔に郷・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・刀身の抜きさしにも手首の運動が肝要な役目を勤める。また真剣を上段から打ちおろす時にピューッと音がするようでなければならない。それにはもちろん刃がまっすぐになることも必要であるが、その上に手首が自由な状態にあることが必要条件であるように思われ・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・すなわち、ある食物が鳥の食欲を刺激してそれを獲得するに必要な動作を誘発しうるためには単に嗅覚の刺激ばかりでは不充分であって、そのほかに視覚なりあるいは他の感覚なり、もう一つの副条件が具足することが肝要であるかもしれないのである。 あるい・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
出典:青空文庫