・・・コップへ半分ばかり温めて頂戴 私はお茶を牛乳とのむんだから―― お茶は戸棚に入ってる モスクでは まだ、身動きの出来ぬ病人はよごれて寝て居ても当人やニャーニカの恥辱にはならぬ、寛容があるらしい。午前七時に当直のニャーニカが入って来て・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・あらゆる箇性の天分を涵養することを以て主眼とする学校教育は、彼女に希望を表現するに適当な手段方向を教えましょう。純正な宗教観から見れば、とかく云うべきことはあっても教会は、徒に狭い階級的、種族的生活からは一段高く、人類の心から人生を観ること・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 彼女は、自分の願望を成就させるに熱中した。 寛容な、謙譲な愛によって仲よく、睦しく助け合って行く自分達を想い、心が安らかに幸福な一群が、楽しく元気よくほんとの「自分達の働き」にいそしむ様子を描きながら、自分の許されている範囲におい・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・めのない悲しさに、その日その日を味気なく送って居る人も、 K子の様に、ああした境遇に自分の好みで落ちて行く人も、皆この地球と云う丸い動く球の上にのって居るのだと思うと、地球と云う者の度量の広さと、寛容さが面白い。 如何なる罪悪も、善・・・ 宮本百合子 「曇天」
・・・ 何より彼より、一番大まかで、寛容でなければならない筈の主人が、重箱の隅ほじりなので、事実以上に種々思って居た事が無いでもあるまいと正直なところ思う。 それでも奥さんがピリッとした人なら、するだけの事はうまく感じよくやってのけたかも・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・愛する――というのは、妥協し、寛容し、黙認し、許すことだ。が、民衆の無知を黙認し、その迷妄と妥協し、そのすべての卑屈さを寛容し、その野獣性を許すことが出来るかね? ニェクラーソフに溺れていたんじゃ何一つ出来ない。百姓は教えられなければいけな・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・我が番組編成の指導方針は事業創始当初より一貫して神ながらの我が国民精神の涵養を基調とし日本文化の普遍と向上を期するにあるのは云う迄もない所である」とされている。指導方針によって放送審議会がこの大綱を定め、中継番組は放送編成会が働き、ローカル・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・ といつも云うだけで、どういう心の習練か恐るべき寛容さを持ちつづけて崩さなかった。 四番目の叔母は私の母とは一つ違いの妹だった。でっぷりよく肥えた顔にいちめん雀斑が出来ていて鼻の孔が大きく拡がり、揃ったことのない前褄からいつも膝頭が・・・ 横光利一 「洋灯」
・・・八世紀の偶像破壊運動は、キリスト教の聖者像をさえも寛容しようとしないものであった。 やがて新しい時代が来た。地を掘る反キリストの徒は穴の底から歓喜にふるえる声で「偶像、偶像」と呼んだ。古代の赤煉瓦の壁の間に女神の白い裸身は死骸のごとく横・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫