・・・そうでなくても一つのものをよく玩味してその旨さが分かれば他のものへの食慾はおのずから誘発されるのである。沢山に並べた栗のいがばかりしゃぶらせるような教科書は明らかに汽車弁当に劣ること数等であろう。 一体「教えるためには教えない術が必要で・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・そうして付け合わせの玩味に際してしいて普遍的論理的につじつまを合わせようとするような徒労を避け、そのかわりに正真な連句進行の旋律を認識し享楽することができはしないかと思うのである。 専門の心理学者ことに精神分析学者の目で連句の世界を見渡・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・之がため鑑賞玩味の興に我を忘るる機会がない。平生わたくし達は心窃にこの事を悲しんでいるので、ここに前時代の遺址たる菊塢が廃園の如何を論じようという心にはなろう筈がない。これが保存の法と恢復の策とを講ずる如きは時代の趨勢に反した事業であるのみ・・・ 永井荷風 「百花園」
・・・一は能く他国の文化を咀嚼玩味して自己薬籠中の物となしたるに反して、一は徒に新奇を迎うるにのみ急しく全く己れを省る遑なきことである。これそも何が故に然るや。今人の智能古人に比して劣れるが故か。将また時勢の累するところか。わたくしは知らない。わ・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・蕪村は読書を好み和漢の書何くれとなくあさりしも字句の間には眼もとめず、ただ大体の趣味を翫味して満足したりしがごとし。俳句に古語古事を用いること、蕪村集のごとく多きは他にその例を見ず。 彼が字句にかかわらざりしは古文法を守らず、仮名遣いに・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・古典を現代の滋養とするために何より大事なのは、より広くより深く歴史の動向に沿うて、社会生活の足あととしての古典を含味・批判・摂取することである。バルザックに還れと叫ぶ人々が、バルザックへ戻る前に既にそれをかみこなす自分らの歯を我から不要のも・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 長篇・短篇と形の上での区分けが枝葉であるということも、作品の持ち味だとか、境地だとか、そんなものの翫味に散文としてこの小説の精髄はないと云われることも、それとして聞けば十分うなずけると思う。古来、本当に人間の肺腑にふれた文学作品で、た・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・これは世界文学史的な現象としてまじめに観察され、含味されなければならないことではなかろうか。 資本主義の社会で、芸術上の才能がその発展開花のためにふさわしい条件をもつということは、その可能の大部分をつねに境遇の偶然にゆだねられている。そ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・それはただ私達が自分の経験を我が物と充分自覚してうけとり、それを凡ゆる角度から玩味し、研究し、社会の客観的な歴史と自分の経験とを照し合わせ、そこから好いにしろ悪いにしろ正直な結論をひき出して、その結論から次ぎの一歩への可能をひき出して行くか・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・そしてその短い言葉を含味するにつれ、素朴に表現されたその感想の中には、作家ツルゲーネフという人の生活なり当時の社会と彼との関係なりを今日のわたし達の目で理解する上に興味ある暗示がふくまれていることを感じるのである。 イン・ツルゲーネ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
出典:青空文庫