・・・修行しようと云う望に、寄食しようと云う望が附帯しているとすると、F君の私を目ざして来た動機がだいぶ不純になってしまう。人間の行為に全く純粋な動機は殆ど無いとしても、F君の行為を催起した動機は、その不純の程度が稍甚しくはあるまいかと疑われる。・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・(勝ち誇りたる気色 女。そんならあなたはわたくしのような性の女が手紙を落すつもりでなくて落すものだとお思いなさるの。 男。なんですと。 女。夫を持っていて色をしようと云う女に、手紙の始末ぐらいが出来ないものでございましょうか。あ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・エルリングはこう云って、目を大きくって、落ち着いた気色で己を見た。「誰の。」「わたくしのです。」「どう云う文句かね。」「殺人犯で、懲役五箇年です。」緩やかな、力の這入った詞で、真面目な、憂愁を帯びた目を、怯れ気もなく、大きく・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫