・・・はそのために大きい彼の写真を出したり、三段抜きの記事を掲げたりした。何でもこの記事に従えば、喪服を着た常子はふだんよりも一層にこにこしていたそうである。ある上役や同僚は無駄になった香奠を会費に復活祝賀会を開いたそうである。もっとも山井博士の・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・、芳年の浮世絵を一つ一つさし示しながら、相不変低い声で、「殊に私などはこう云う版画を眺めていると、三四十年前のあの時代が、まだ昨日のような心もちがして、今でも新聞をひろげて見たら、鹿鳴館の舞踏会の記事が出ていそうな気がするのです。実を云・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・北海道の記事を除いたすべては一つ残らず青森までの汽車の中で読み飽いたものばかりだった。「お前は今日の早田の説明で農場のことはたいてい呑みこめたか」 ややしばらくしてから父は取ってつけたようにぽっつりとこれだけ言って、はじめてまともに・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ 新聞の電報と、続いて掲げられた上州の記事は、ここには言うまい。俊吉は年紀二十七。いかほ野やいかほの沼のいかにして 恋しき人をいま一見見む大正三年一月 泉鏡花 「第二菎蒻本」
・・・ 新聞記事などに拠って見ると、夏目さんは自分の気に食わぬ人には玄関払いをしたりまた会っても用件がすめば「もう用がすんだから帰り給え」ぐらいにいうような人らしく出ているが、私は決してそうは思わない。私が夏目さんに会ったのは、『猫』が出てか・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・で冤を雪がれた井伊直弼の亡霊がお礼心に沼南夫人の孤閨の無聊を慰めに夜な夜な通うというような擽ぐったい記事が載っていた。今なら女優を想わしめるジャラクラした沼南夫人が長い留守中の孤独に堪えられなかったというは、さもありそうな気もするが、マサカ・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・、所謂現代人が嫌う者にして来世問題の如きはない、殊に来世に於ける神の裁判と聞ては彼等が忌み嫌って止まざる所である、故に彼等は聖書を解釈するに方て成るべく之れを倫理的に解釈せんとする、来世に関する聖書の記事は之れを心霊化せんとする、「心の貧し・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・その記事に依ると、本当の母親は小さいうちに死んでしまって、継母の手に育ったという。博士は三人の子供が三人共学問が嫌いで、性質が悪くて家出をしたように云っているけれども、これを全く子供の罪に帰する事は出来ぬ。「妻は小学校しか卒業していない女だ・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・ 眼の下にお土産物を売っている店がある。木地細工の盆や、茶たくや、こまや、玩具などを並べている。其の隣りには、果物店があった。また絵はがきをも売っている。稀に、明日帰るというような人が、木地細工の店に入っているのを見るばかりであるが、果・・・ 小川未明 「渋温泉の秋」
一 根本的用意とは何か 一概に文章といっても、その目的を異にするところから、幾多の種類を数えることが出来る。実用のための文書、書簡、報道記事等も文章であれば、自己の満足を主とする紀行文、抒情叙景文、論文等も文章である。 こゝ・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
出典:青空文庫