・・・そこで山椒大夫もことごとく奴婢を解放して、給料を払うことにした。大夫が家では一時それを大きい損失のように思ったが、このときから農作も工匠の業も前に増して盛んになって、一族はいよいよ富み栄えた。国守の恩人曇猛律師は僧都にせられ、国守の姉をいた・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・この間るんは給料の中から松泉寺へ金を納めて、美濃部家の墓に香華を絶やさなかった。 隠居を許された時、るんは一旦笠原方へ引き取ったが、間もなく故郷の安房へ帰った。当時の朝夷郡真門村で、今の安房郡江見村である。 その翌年の文化六年に、越・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・リンツマンの檀那と云うのは鞣皮製造所の会計主任で、毎週土曜日には職人にやる給料を持ってここを通るのである。 この檀那に一本お見舞申して、金を捲き上げようと云う料簡で、ツァウォツキイは鉄道の堤の脇にしゃがんでいた。しかしややしばらくしてツ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫