・・・ ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 以上は現在私が抱いている詩についての見解と要求とをおおまかにいったのであるが、同じ立場から私は近時の創作評論のほとんどすべてについていろいろいってみたいことがある。・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ 目ばかり光って、碧額の金字を仰いだと思うと、拍手のかわりに――片手は利かない――痩せた胸を三度打った。「願いまっしゅ。……お晩でしゅ。」 と、きゃきゃと透る、しかし、あわれな声して、地に頭を摺りつけた。「願いまっしゅ、お願・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・ その紺地に、清く、さらさらと装上った、一行金字、一行銀書の経である。 俗に銀線に触るるなどと言うのは、こうした心持かも知れない。尊い文字は、掌に一字ずつ幽に響いた。私は一拝した。「清衡朝臣の奉供、一切経のうちであります――時価・・・ 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・ 寒月の名は西鶴の発見者及び元禄文学の復興者として夙に知られていたが、近時は画名が段々高くなって、新富町の焼けた竹葉の本店には襖から袋戸や扁額までも寒月ずくめの寒月の間というのが出来た位である。寒月の放胆無礙な画風は先人椿岳の衣鉢を承け・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 私が鴎外と最も親しくしたのは小倉赴任前の古い時代であった。近時は鴎外とも疎縁となって、折々の会合で同席する位に過ぎなかったが、それでも憶出せば限りない追懐がある。平生往来しない仲でも、僅か二年か三年に一遍ぐらいしか会わないでも、昔・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・この欠陥と不満は、すでに従来のお伽噺や、童話について感じられたことであって、児童の読物を科学的のものに引戻せという声は、その反動的のあらわれと見なければなりません。近時、児童の読物といえば、先ず科学的知識を主としたものが重きをなすようになっ・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・ひとり搾取の対象となった彼等の上に、近時、社会の眼が、ようやく正しく向いて来たのでした。 小川未明 「近頃感じたこと」
一 学窓への愛と恋愛 学生はひとつの志を立てて、学びの道にいそしんでいるものである。まず青雲を望み見るこころと、学窓への愛がその衷になければならぬ。近時ジャーナリストの喧声はややもすれば学園を軽んじるかに見・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・しかし大学にある間だけの費用を支えるだけの貯金は、恐ろしい倹約と勤勉とで作り上げていたので、当人は初めて真の学生になり得たような気がして、実に清浄純粋な、いじらしい愉悦と矜持とを抱いて、余念もなしに碩学の講義を聴いたり、豊富な図書館に入った・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・少しく小説の数をかけて読んだお方が、ちょっと瞑目して回想なさったらば、馬琴前後および近時の写実的傾向を帯びた小説等の主人公や副主人公や、事件の首脳なんどが、いかに多く馬琴の著わした小説中の枝葉の部分に見出さるるかという点には必ず御心づきにな・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
出典:青空文庫