・・・正面には女郎花が一番高く咲いて、鶏頭はそれよりも少し低く五、六本散らばって居る。秋海棠はなお衰えずにその梢を見せて居る。余は病気になって以来今朝ほど安らかな頭を持て静かにこの庭を眺めた事はない。嗽いをする。虚子と話をする。南向うの家には尋常・・・ 正岡子規 「九月十四日の朝」
・・・私は天の子供らのひだのつけようからそのガンダーラ系統なのを知りました。またそのたしかに于大寺の廃趾から発掘された壁画の中の三人なことを知りました。私はしずかにそっちへ進み愕かさないようにごく声低く挨拶しました。「お早う、于大寺の壁画の中・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・ 後年、有島武郎が客観的に見れば平凡と云い得る女主人公葉子に対して示した作家的傾倒の根源は既に遠い昔に源をもっていることを理解し得るのである。 作者が独立教会からも脱退し、キリスト教信者の生活、習俗に対して深い反撥を感じていた時・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 何年もおなじ系統の職業に従事してきたことが、短く苅った頭にも、書類挾みをもった手首の表情にもあらわれている事務官が、黒い背広をきて、私たちの入ったとは反対側のドアから入ってきた。課長と大同小異の説明をした。もし、書くもののどういうとこ・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・専門学校では文科系統の学徒が容しゃなく前線へ送り出され、理科系統のものだけが戦力準備者としてのこされた。何年間も否定されつづけて来た若き生の、肯定と回復の一つの気の如く、不安なつつみどころのない表現として、自然と自意識の問題を語るとき大多数・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・なにか、芭蕉の句を引いて、芭蕉の芸術境に対する自己の傾倒をのべた一文があった。引用されている句の中には「あか/\と日は難面も秋の風」「馬をさへながむる雪の朝哉」そのほか心に刻まれた句があった。藤村氏は、それらに対する味到の心持をのべている。・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・総同盟は、自分たちの内部で丈単一組合化をやるので、他の系統の組合と合流した単一化になるのではないようです。従って、総同盟単一組合中の婦人部の問題はイゼンとしてあるわけです。お話のきき間違いかとも思って、一寸。・・・ 宮本百合子 「往復帖」
・・・だからいざとなると、主観の上での好きさにたよって云うのもそこらの娘っこのようでいやだし、それなら、一個の芸術家として見ている俳優をあげるところまでは鑑賞が系統だたず、でも、何故そのままの気持で、随分つまらないものにも涙こぼしたりするんだから・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・最近『思想と科学』に発表された二百枚の論文は、文化反動との系統的なたたかいである。 民主主義文学の「仲間ぼめ」とかそのための「同志的沈黙」という表現は、反動ジャーナリズムのこのむところだ。しかし民主的文学運動の実際をいくらかでも知ってい・・・ 宮本百合子 「河上氏に答える」
・・・ 環境的に見ると、あなたの周囲は明治以来の東京帝国大学の系統をひいたインテリゲンツィアの一つの典型であると思われます。教養あるレスペクタブル・ファミリイであり、レスペクタブル・ファミリイと英語で形容するにふさわしい英文学の影響が、単に趣・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
出典:青空文庫