・・・芸術の世界に限らず科学の世界でも何か新しい事を始めようとする人に対する世間の軽侮、冷笑ないし迫害は、往々にして勇気を沮喪させたがるものである。しかし自分の知っている津田君にはそんな事はあるまいと思う。かつて日露戦役に従ってあらゆる痛苦と欠乏・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・これを誤解すれば、物理学を神の掟のように思って妄信してしまうか、さもなくば反対に物理学の価値を見損なって軽侮してしまうかの二つに一つである。 物理の実験である予定の結果に到達しようとするには、その結果を支配し得べきあらゆる条件要素を考え・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・こいつはもうだめだと思いながら、そのものに対する責任は尽くして行くといったような態度や弱き者に対する軽侮の笑いに対しては、生きている私は屈辱を感ぜずにはいられなかった。」 私はここまで読んだ時に、当時の自分のどこかに知らぬ間に潜んでいた・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・ 少しむつかしくなるのは、得意な時の自慢笑い、軽侮した時の冷笑などである。しかしにはとの混合があり、にはやの錯雑がある。苦笑というのがある。これは自分を第三者として見た時のととが自分を自分とした時の苦痛と混合したものででもあろうか。・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・もし然らずして教師みずから放蕩無頼を事とすることあらば、塾風たちまち破壊し、世間の軽侮をとること必せり。その責大にして、その罰重しというべし。私塾の得、一なり。一、私塾にて俗吏を用いず。金穀の会計より掃除・取次にいたるまで、生徒、読書の・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・んじて、権力はもっぱら長男に帰し、長少の序も紊れざるが如くに見えしものが、近年にいたりてはいわゆる腕前の世となり、才力さえあれば立身出世勝手次第にして、長兄愚にして貧なれば、阿弟の智にして富貴なる者に軽侮せられざるをえず。ただに兄のみならず・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・国の安全を保ち、他の軽侮を防ぐためには、欠くべからざるものなり。 およそ世の中に仕事の種類多しといえども、国の政事を取扱うほど難きものはなし。骨折る者はその報を取るべき天の道なれば、仕事の難きほど報も大なるはずなり。ゆえに政府の下にいて・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・遂に西洋人に仮すに我を軽侮するの資を以てして、彼らをして我に対して同等の観をなさしめざるに至りしは、千歳の遺憾、無窮に忘るべからざる所のものなり。 然り而して日本国中その責に任ずる者は誰ぞや、内行を慎まざる軽薄男子あるのみ。この一点より・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ここは天子さんのとこでそんな警部や何かのとこじゃないんだい。ずうっと奥へ行こうよ。」 私もにわかに面白くなりました。「おい、東北長官というものを見たいな。どんな顔だろう。」「鬚もめがねもあるのさ。先頃来た大臣だってそうだ。」・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
・・・気がついて見るとロザーロのあとからさっきの警部か巡査からしい人が扉から顔を出して出て行くのを見ていたのです。わたくしがそっちを見ますと、その顔はひっこんで扉はしまってしまいました。中ではこんどは山猫博士の馬車別当が何か訊かれているようすで、・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫