・・・岬の上には警報台の赤燈が鈍く灯って波に映る。何処かでホーイと人を呼ぶ声が風のしきりに闇に響く。 嵐だと考えながら二階を下りて室に帰った。机の前に寝転んで、戸袋をはたく芭蕉の葉ずれを聞きながら、将に来らんとする浦の嵐の壮大を想うた。海は地・・・ 寺田寅彦 「嵐」
・・・それでもう一ぺん同じように警報を発しておいて、すきを見て燭火を引っくりかえして火事を起こしたはいいが自分がそのために焼死しそうになるといったような場面もある。また大地震で家がつぶれ、道路が裂けて水道が噴出したり、切断した電線が盛んにショート・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・なるものを指定して警報を発する設備もあるようである。 わが国でも毎年四五月ごろは山火事のシーズンである。同じ一日じゅうに全国各地数十か所でほとんど同時に山火事を発することもそう珍しくはない。そういう時はたいていきまって著しい不連続線が日・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・、一 配偶者カ重婚ヲ為シタルトキ二 妻カ姦通ヲ為シタルトキ三 夫カ姦淫罪ニ因リテ刑ニ処セラレタルトキ四 配偶者カ偽造、賄賂、猥褻、窃盗、強盗、詐欺取財、受寄物費消、贓物ニ関スル罪若クハ刑法第百七十五条第二百六十条ニ掲ケタル罪・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・その無能力者を、刑法では、そう認めず、処罰にあたっては、忽ち同一の主婦が能力者として扱われるという矛盾は、残酷という以上ではないだろうか。日本の民法はしっかりと改正されなければならない。 内縁関係、未亡人の生きかたに絡む様々の苦しい絆は・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・夫と妻の財産に対する権利の平等、刑法上で婦人にばかり姦通罪がきびしかった点も改正され、離婚に対する権利の平等、母親の子供に対する親権も父親と等しいものに認められるようになってきている。これは日本でつくられた憲法、民法、刑法上での大革命である・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ところが、刑法において、婦人はどう扱われているであろうか。刑法上、その行為の責任を負うに耐えないものとなっている事は、精神異常者その他人並の分別を一時的にしろ喪った者となっている。女子が、神経の弱い、社会的因襲による無智から常規を逸しやすい・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ドイツと日本の食糧事情は最悪であると、警報がかかげられている。その記事の傍らに見るものは、連日連夜にわたる幣原、三土、楢橋の政権居据りのための右往左往と、それに対する現内閣退陣要求の輿論の刻々の高まり、さらにその国民の輿論に対して、楢橋書記・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・この頃いろいろなことで、女子が出ても、選挙の問題や婦人の問題ばかりでなく、刑法・民法のように、まだまだ差別のあることを御承知でしょうし、婦人は公民権をもっておりませんし、代議士になって、いろいろよい施策をやるとしても、いろいろな役割をするに・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・民法とか刑法とか商業に関する法律とかいろいろの法律がたくさん出ました。そして法律によって治められる国ということになりました。ところが明治時代から今日までにできた日本の憲法、民法、刑法その他のものを見ました時に、先程もいろいろの方がお話になっ・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
出典:青空文庫