・・・とか、農村を都市に対立させて、農民は、農民独自の力によって解放され得るが如く考えている無政府主義的な単農主義者等の立場とは、最初の出発からその方向を異にしていた。農民生活を題材としても、その文学のねらう、主要なポイントは、プロレタリア文学が・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・と独語つところへ、うッそりと来かかる四十ばかりの男、薄汚い衣服、髪垢だらけの頭したるが、裏口から覗きこみながら、異に潰れた声で呼ぶ。「大将、風邪でも引かしッたか。 両手で頬杖しながら匍匐臥にまだ臥たる主人、懶惰にも眼ばかり動かし・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・安政の大獄をはじめとして、大小各藩において、当路と政見を異にしたがために、斬に処し、もしくは死をたまわった者は、かぞえるにたえぬではないか。ロシア革命運動に関する記録を見よ。過去四十年間に、この運動に参加したため、もしくはその嫌疑のために刑・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・仏国革命の恐怖時代を見よ、政治上の党派を異にすというの故を以て斬罪となれる者、日に幾千人に上れるではない歟、日本幕末の歴史を見よ、安政大獄を始めとして、大小各藩に於て、当路と政見を異にせるが為めに、斬に処し若くば死を賜える者計うるに勝えぬで・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・しかしこの退屈は下手な芝居映画の退屈などとは全く類を異にした退屈であって、それは画中の人生と自然そのものの退屈から来る圧迫感である。詳しくいえば、大西洋の海面の恒久の退屈さでありアラン島民の生活の永遠の退屈さである。退屈というのが悪ければ深・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・宗匠はそこで涼の会や虫の会を開いて町の茶人だちと、趣向を競った話や、京都で多勢の数寄者の中で手前を見せた時のことなどを、座興的に話して、世間のお茶人たちと、やや毛色を異にしていることを、道太に頷かせた。「こんな物でもお気に入ったら」おひ・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ 諸君、僕は幸徳君らと多少立場を異にする者である。僕は臆病で、血を流すのが嫌いである。幸徳君らに尽く真剣に大逆を行る意志があったか、なかったか、僕は知らぬ。彼らの一人大石誠之助君がいったというごとく、今度のことは嘘から出た真で、はずみに・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・家は軽快なる二階づくりで其の門墻も亦極めていかめしからざるところ、われわれの目には富商の隠宅か或は旗亭かとも思われた位で、今日の紳士が好んで築造する邸宅とは全く趣を異にしたものであった。 茅町の岸は本郷向ヶ岡の丘阜を背にし東に面して不忍・・・ 永井荷風 「上野」
・・・大いに世の佶屈難句なる者と科を異にし、読者をして覚えず快を称さしむ。君齢わずかに二十四、五。しかるに学殖の富衍なる、老師宿儒もいまだ及ぶに易からざるところのものあり。まことに畏敬すべきなり。およそ人の文辞に序する者、心誠これを善め、また必ず・・・ 中江兆民 「将来の日本」
・・・者と云うものは岡目八目とも云い、当局者は迷うと云う諺さえあるくらいだから、冷静に構える便宜があって観察する事物がよく分る地位には違ありませんが、その分り方は要するに自分の事が自分に分るのとは大いに趣を異にしている。こういう分り方で纏め上げた・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
出典:青空文庫