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・・・そして、あんな貧乏だのに御礼に金はどうしても貰わず、ただ、よい布と美しい絹糸を下さいというばかりなのです。お婆さんの家へ行くと、いつも鼠やげじげじが、まるで人間のように遊んでいるのも、皆には気味が悪かったのでしょう。 一本針の婆さんの処・・・
宮本百合子
「ようか月の晩」
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・・・この蝦蟇出の急須に絹糸の切屑のように細かくよじれた、暗緑色の宇治茶を入れて、それに冷ました湯を注いで、暫く待っていて、茶碗に滴らす。茶碗の底には五立方サンチメエトル位の濃い帯緑黄色の汁が落ちている。花房はそれを舐めさせられるのである。 ・・・
森鴎外
「カズイスチカ」