・・・もっと一般に言えば宇宙のエントロピーが次第に減少し、世界は平等から差別へ、涅槃から煩悩へとこの世は進展するのである。これは実に驚くべき大事件でなければならない。もっと言葉を変えて言えば、すべての事がらは、現世で確率の大きいと思われるほうから・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・こういう皮膜がいわゆる boundary lubrication の作用をして面の固体摩擦を著しく減少することは Rayleigh, Hardy, Langmuir, Devaux らの研究によって明らかになったことである。こういう皮膜は多・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・それから脈搏がだんだん減少して行き、それが六十ぐらいに達したころに急に卒倒して人事不省に陥るそうである。それだから、頭を打ったと思ったらたとえ気分に変わりがないと思っても、絶対安静にして、そうして脈搏を数えなければならないそうである。そうし・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・ 風速によってとんぼの向きの平均誤差が減少するであろうと想像される。その影響の量的数式的関係なども少し勉強すれば容易に見つかりそうに思われる。アマチュア昆虫生態学者にとっては好個のテーマになりはしないかという気がしたのであった。 と・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・そうして同時に好きなものへの欲望も減少し、結局自分の中の「詩の世界」の色彩があせてくることもたしかである。「毛ぎらい」と「詩」と「ホルモン」とは「三位一体」のようなものかもしれないのである。 十二 透明人間 ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 高く上がるにつれて頂上の部分のコーリフラワー形の粒立った凹凸が減じて行くのは、上昇速度の減少につれて擾乱渦動の衰えることを示すと思われた。同時に煙の色が白っぽくなって形も普通の積乱雲の頂部に似て来た、そうしてたとえば椎蕈の笠を何枚か積・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・塵を含んだ空気を隔てて遠方の景色を見る時に、遠いものほどその物から来る光が減少して、その代りに途中の塵から散らされて来る空の光の割合が多くなるから、目的物がぼんやりする訳である。 池の面の波紋でも実験されるように、波の長さが障碍物の大き・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・これは明らかに乙丙電車の間隔を次第次第に減少し、従って乙の混雑と丙の空虚をますます著しくする事に帰着して行くのである。 長い線路の上にはじめ等間隔に配列された電車が、運転につれて間隔に不同を生じる。そうして遅れるものと進むものとが統計上・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・この損失は全然無くすることは困難であるとしても半分なり三分の一なりに減少することは決して不可能ではないのである。 火災による国家の損失を軽減してもなるほど直接現金は浮かび上がっては来ない。むしろかえって火災は金の動きの一つの原因とはなり・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ 罪悪の心理がもしほんとうに科学的な正確さをもって書き表わされていれば、それは読者にとってはかなり有益であり、そうしてそういう罪悪を予防し減少するような効果を生じるかもしれない。これに反して罪悪の外側のゆがんだ輪郭がいたずらに読者の病的・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
出典:青空文庫