・・・凡そ男女交際の清濁は其気品の如何に関することにして、例えば支那主義の眼を以て見れば、西洋諸国の貴女紳士が共に談じ共に笑い、同所に浴こそせざれ同席同食、物を授受するに手より手にするのみか、其手を握るを以て礼とするが如き、男女別なし、無礼の野民・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ただに主僕の間のみならず、後妻をめとりて先妻を想うの例もあり。親愛尽きはてたる夫婦の間も、遠ざかればまた相想うの情を起すにいたるものならん。されば今、店子と家主と、区長と小前と、その間にさまざまの苦情あれども、その苦情は決して真の情実を写し・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・その有様は、心身に働なき孤児・寡婦が、遺産の公債証書に衣食して、毎年少々ずつの金を余ますものに等し。天下の先覚、憂世の士君子と称し、しかもその身に抜群の芸能を得たる男子が、その生活はいかんと問われて、孤児・寡婦のはかりごとを学ぶとは、驚き入・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・それはこうだ――何でも露国との間に、かの樺太千島交換事件という奴が起って、だいぶ世間がやかましくなってから後、『内外交際新誌』なんてのでは、盛んに敵愾心を鼓吹する。従って世間の輿論は沸騰するという時代があった。すると、私がずっと子供の時分か・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
私の文学上の経歴――なんていっても、別に光彩のあることもないから、話すんなら、寧そ私の昔からの思想の変遷とでもいうことにしよう。いわば、半生の懺悔談だね……いや、この方が罪滅しになって結句いいかも知れん。 そこでと、第・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・けれども、ジュコーフスキー流にやると、成功すれば光彩燦然たる者であるが、もし失敗したが最後、これほど見じめなものはないのだから、余程自分の手腕を信ずる念がないとやりきれぬ。自分はさすがにそれほど大胆ではなかったので、どうも険呑に思われて断行・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・文士や画家や彫塑家の寄合所になっていた、小さい酒店が幾つもあったが、それがたいてい閉店してしまって、そこに出入していた人達は、今では交際社会の奢った座敷に出入している。新進文士でも二三の作が少し評判がいいと、すぐに住いや暮しを工面する。ちょ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・君が僕と共にしたのは、夜昼とない無意味の対話、同じ人との交際、一人の女を相手にしての偽りの恋に過ぎぬ。共にしたとはいうけれど、譬えば一家の主僕がその家を、輿を、犬を、三度の食事を、鞭を共にしていると変った事はない。一人のためにはその家は喜見・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・して芭蕉塚と称えこれを尊ぶ俗人もありて、芭蕉という名は徹頭徹尾尊敬の意味を表したる中に、咳唾珠を成し句々吟誦するに堪えながら、世人はこれを知らず、宗匠はこれを尊ばず、百年間空しく瓦礫とともに埋められて光彩を放つを得ざりし者を蕪村とす。蕪村の・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・本社のいちはやく探知するところによればツェ氏は数日前よりはりがねせい、ねずみとり氏と交際を結びおりしが一昨夜に至りて両氏の間に多少感情の衝突ありたるもののごとし。台所街四番地ネ氏の談によれば昨夜もツェ氏は、はりがねせい、ねずみとり氏を訪問し・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
出典:青空文庫