・・・今いる家は静かそうに思って移ったのですが、後に工場みたいなものがあって、騒々しいので、もう少し静かなところにしたいと思って先日も探しに行ったのですが、私はどちらかというと椅子の生活が好きな方で、恰度近いところに洋館の空いているのを見つけ私の・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・ソヴェト同盟が搾り専門の社長、重役を工場から追っぱらったと同時に、監督とか世話役とか天くだりの役員を廃絶し、みんなが順ぐり互の仕事を監督し合い、技術を向上するよう励まし合ってゆくプロレタリアらしいやりかたが、この代議員というものに現われてい・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・婦人が生産面により多く参加しつつあるということが、いきなり婦人の社会的条件の向上を意味しないことは明らかである。現代に処する女としての新しい義務は、今日欲する欲しないにかかわらず新しく増大され、拡大されつつある女の生活経験と、すくなからぬ犠・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・それらの運動は単純に家長的な立場から見られている女らしさの定義に反対するというだけではなくて、本当の女の心情の発育、表現、向上の欲求をも伴い、その可能を社会生活の条件のうちに増して行こうとするものであった。社会形成の推移の過程にあらわれて来・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・社会的活動への婦人の進出はめざましいし、その必要の意味も、個人的に社会的に加重されてきているのであるけれども、その一つの事実がとりもなおさず婦人としての生活条件を全般的に向上させているかといえば、そうであるという回答は得られまい。女としての・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・黒の市松模様の油障子を天井にして、色とりどりの菊の花の着物をきせられた活人形が、芳しくしめっぽい花の香りと、人形のにかわくささを場内に漲らせ、拍子木につれてギーとまわる廻り舞台のよこに、これも出方姿の口上がいて、拍子木の片方でそっちを指しな・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ このことは、作者と作品と、作品がそこから創り出されて来る現実との三角関係のありようにもかかわって来ることが、「現代文学の非恒常性」のなかで、興味ふかく語られている。先ず、作品と作者との関係は、作者の主観的な意欲や創作熱意だけで解決する・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・と口上を教えて女中を一番近所に住んで居る京子の所へ迎にやった。 十五分許してから京子が書斎に入って来た時千世子は待ちくたびれた様にぼんやりした顔をしてつるした額の絵の女を見て居た。 今日は大変御機嫌が悪いんだってねえ、・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・すると、隣の店からは軟かい、甘ったるい、うっとりさせる口上が流れて来る。「手前共は、羊皮や長靴などの商いではございません。金銀にまさる神様のお恵みを御用立てるのでございます。これには、もう値段はございません」「畜生! うまく百姓をた・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・あんまり譲原さんが汗をかくので、わたしもその時の担当者であった江上さんも心配になって、いきなりではあんまり無理らしいからと、四、五日さきに録音をのばした。わたしたちは皆単に、譲原さんはひどく疲れている上に馴れない、放送局のなかは不自然に暖か・・・ 宮本百合子 「譲原昌子さんについて」
出典:青空文庫