・・・ と祖母も莞爾して、嫁の記念を取返す、二度目の外出はいそいそするのに、手を曳かれて、キチンと小口を揃えて置いた、あと三冊の兄弟を、父の膝許に残しながら、出しなに、台所を竊と覗くと、灯は棕櫚の葉風に自から消えたと覚しく……真の暗がりに、も・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ と颯と紙が刎ねて、小口をばらばらと繰返すと、戸外の風の渦巻に、一ちぎれの赤い雲が卓子を飛ぶ気勢する。「この前の時間にも、に書いて消してをまた消して(颶風なり、と書いた、やっぱり朱で、見な…… しかも変な事には、何を狼狽たか、一・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・僕もただ話の小口にそう云うたまでであるから、民子に泣きそうになられては、かわいそうに気の毒になって、「僕は腹を立って言ったでは無いのに、民さんは腹を立ったの……僕はただ民さんが俄に変って、逢っても口もきかず、遊びにも来ないから、いやに淋・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・ 祖母の顔を見るとすぐ、「御隠居様、『おともさん』は……と一層はげしく笑いこけながら、呉服屋からうけ取った金を小口から買物にはらったのだけれ共、一度代をはらうと、黄色い財布からチャラチャラと一つあまさず出して、すっかり勘・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫