・・・濫な作者の道楽気は反省されなければならないと共に、群集の一人でも、此からの舞台では、仕出し根性を改めなければならないのではあるまいか。 此時ばかりでなく、「恋の信玄」で手負いの侍女が、死にかかりながら、主君の最期を告げに来るのに、傍にい・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・言をかえていえば、それ等社会学、経済学的原則が実行に移されようとする時、乾坤一擲、新たな生命を以て、しんからうまれ変らなければならない根性が、人間の、人生に向かう態度のうちにあるのではないだろうか。その根性がある為に、時代から時代へと、今日・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・ 三分の一ほどの上は白いフワフワ雲にかくれて現われた部分は銀と紺青との二色に大別されて居る。 けれ共ジーッと見て居るとその中に限りない色のひそんで居るのを見る。 一目見た時に銀に見える色も雲のあつい所は燻し銀の様に又は銀の箔の様・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・某年来桑門同様の渡世致しおり候えども、根性は元の武士なれば、死後の名聞の儀もっとも大切に存じ、この遺書相認置き候事に候。 当庵は斯様に見苦しく候えば、年末に相迫り相果て候を見られ候方々、借財等のため自殺候様御推量なされ候事も可有之候えど・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・日はまだ米山の背後に隠れていて、紺青のような海の上には薄い靄がかかっている。 一群れの客を舟に載せて纜を解いている船頭がある。船頭は山岡大夫で、客はゆうべ大夫の家に泊った主従四人の旅人である。 応化橋の下で山岡大夫に出逢った母親と子・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・ 英文学で、Wilde の代表作としてある Dorian Gray を見たら、どの位人間の根性が恐ろしいものだということが分かるだろう。秘密の罪悪を人に教える教科書だと言っても好い。あれ程危険なものはあるまい。作者が男色事件で刑余の人に・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・ 私はある冬の日、紺青鮮やかな海のほとりに立った。帆を張った二三十艘の小舟が群れをなして沖から帰って来る。そして鳩が地へ舞いおりるように、徐々に、一艘ずつ帆をおろして半町ほどの沖合いに屯した。岸との間には大きい白い磯波が巻き返している。・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫