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・・・ やがて弁当の支度を母親に任かして、お絹は何かしら黒っぽい地味な単衣に、ごりごりした古風な厚ぼったい帯を締めはじめた。「ばかにまた地味づくりじゃないか」道太がわざと言うと、お絹は処女のように羞かんでいた。 道太は今朝辰之助に電話・・・
徳田秋声
「挿話」
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・・・ 淵沢小十郎はすがめの赭黒いごりごりしたおやじで胴は小さな臼ぐらいはあったし掌は北島の毘沙門さんの病気をなおすための手形ぐらい大きく厚かった。小十郎は夏なら菩提樹の皮でこさえたけらを着てはむばきをはき生蕃の使うような山刀とポルトガル伝来・・・
宮沢賢治
「なめとこ山の熊」