・・・彼がこの文章の形式を選んだのは、一つには彼の肉体が病弱で、体系を有する大論文を書くに適しなかつた為もあらうが、実にはこの形式の表現が、彼のユニイクな直覚的の詩想や哲学と適応して居り、それが唯一最善の方法であつたからである。アフォリズムとは、・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・非役の輩は固より智力もなく、かつ生計の内職に役せられて、衣食以上のことに心を関するを得ずして日一日を送りしことなるが、二、三十年以来、下士の内職なるもの漸く繁盛を致し、最前はただ杉檜の指物膳箱などを製し、元結の紙糸を捻る等に過ぎざりしもの、・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・食うに困らず、顔がきき、絹くつ下にも困らないからといって、そういう人の最善の愛人でありうるでしょうか。恋愛ということは字が示す通り、人間と人生を愛する心のうえにたって、男と女とが互いにひかれあう感情です。昔の人が手鍋さげてもといったその感情・・・ 宮本百合子 「生きるための恋愛」
・・・ その一つであって二つにわかれたもののようにある重い条件をひっくるめて、私たちは自分の生活として持って、毎日の生活の中で、外ならぬ自分たち二人でそれを最善に向かって改善してゆくしかない。若い世代の結婚や家庭の持ちかたに見出されるべき新し・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・特に、民衆の個性、自発性の涵養の問題は常にソヴェトにおける文化問題の究明に際して最前面に出されているのであるから。彼は、それらの現象の本質の把握において誤ったことで遂に全体さえも誤ってしまった。 更に、ジイドの混乱の心理的原因として、旅・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・刻々の裡に最善をつくして生きようとしている私たちの意欲の表現としての文学は、昨日の文学をよりひろい歴史的な視野において見直すとともに、明日の世代の文化へと前進しなければならない。容易ならないその仕事のために、私たちの成長のための何かの善意の・・・ 宮本百合子 「序(『文学の進路』)」
・・・戦争が世界的な規模になって来ている今、若い世代は次第に沈着にめいめいの運命を担って最善をそこにつくしてゆく健気な心になっている。友情もそれらの波瀾を互の人生的なものとして凌いで行こうとするその雄々しさと思いやりとで結ばれて行くように変化しつ・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・それ故本を活々とした人間の努力の集積、それを最善につかって有益な結果をひき出す筈のものというような考えかたは、私としては随分後まで身につけなかった。 並べて見ているだけでよろこばしい亢奮を覚えるというような工合で、国民文庫刊行会で出版し・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
・・・ 銀と黄金と私の心と―― 一つの大きなかたまりとなって偉大な宙に最善の舞を舞う。 稲の刈りあとと桑の枯木 田の稲の刈り取られたままひからびた様子は淋しい気持がするものだと先からの人達は云って居る。けれ共二十本・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・そのような結果さえもたらした野蛮暗黒な当時の日本で、小林多喜二が一人の正直なインテリゲンツィアとして、自分の良心の声、自分の人間的確信に従って、そのとき最善と判断された解放運動の方向に従ったということにこそ、今日のすべての自覚あるインテリゲ・・・ 宮本百合子 「誰のために」
出典:青空文庫