・・・ 此処に、家庭の主婦として芸術に指を染めようとする者と、先ず芸術を本領とし、愛する者の伴侶であろうとする者との、截然岐るべき点がある。 福島からとりと云う五十歳ばかりの女中が来、自分の生活が一方にはっきりと重点を定めて仕舞うまで、今・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・アグネスは、結婚の腐敗から女を救い、よりましな結婚を存在させる社会をつくるためには、一組一組ずつの結婚生活が、今日の現実の中で、最前をつくしてよりましなものにする努力に於て営まれてゆかなければならないという事実を、全く考えて見ようとも思って・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・来年という年と、未来のためにもそこを最善に生きようとする私たちすべてに対して、心からの激励と祝福とがあってよいのだと思う。〔一九四〇年十二月〕 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・然し、周囲が最善の道として彼女に示す処は、唯その一路であると同時に、彼女自身も若しそれを断然拒絶するとしたら、果して後には何が、よりよき生活として見出されるだろうかと云う危惧を払い得ないのです。 始めそのことを聞いた時、第一自分の胸に来・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・今日及び明日の作家には、文学の大道から、今日おびただしい犠牲を通じて行われている心を痛ましめる衝突と一刻も早く望まれる最善の解決とを、歴史性の動向につき入って観察し描破しようとする熱意、力量の蓄積、鍛練が希望されている筈である。 ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・男性が最もよく女性の感化を受けた時、彼は天性の最善、最美な光輝を現します。それと同じに、女性は男性の正しいよい影響を受けると、彼女の生命の一番目覚ましい発育を遂げるのです。私共は、それ故、異性の間に生れる特殊な雰囲気は、人生に大切な一種の創・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
・・・何といおうか、人格の芯の芯まで光りが射し込み、自己内部に拘わっているものの純不純が一目瞭然とし、我というものに対して取るべき態度、延いては外界と自己との均衡がその時の最善に於てきっぱりと、わかったのです。 この位置のきまったという感は、・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・私はその場所にいる自分の段階で、出来うるかぎり最善の努力を払えば良いと思っている。次ぎの日には、次ぎの日の段階が必ずなければ、時間というものは何のためのものでもない。 私は作品を書く場合には、一つ進歩した作品を書けば、必ず一つは前へ戻っ・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫