・・・「がきに踏まれるよりこの方がさばさばします。」 何としても、これは画工さんのせいではない――桶屋、鋳掛屋でもしたろうか?……静かに――それどころか!……震災前には、十六七で、渠は博徒の小僧であった。 ――家、いやその長屋は、妻恋・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ここでは学歴なども訊かれず、かえってさばさばした気持だった。しかし、一日に十三時間も乗り廻すので、時々目が眩んだ。ある日、手を挙げていた客の姿に気づかなかったと、運転手に撲られた。翌日、その運転手が通いつめていた新世界の「バー紅雀」の女給品・・・ 織田作之助 「雨」
・・・世界じゅうに一本も電柱がなくなるというのはどんなにさばさばしたことでしょうね。だいいち、あなた、ちゃんばら活動のロケエションが大助かりです。私は役者ですよ。」 マダムは眼をふたつ乍ら煙ったそうに細めて、青扇のでらでら油光りしだした顔をぼ・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・雑誌をよしてさばさばしたよ。今夜は僕、枕を高くしてのうのうと寝るぞ! それに、君、僕はちかく勘当されるかも知れないのだよ。一朝めざむれば、わが身はよるべなき乞食であった。雑誌なんて、はじめから、やる気はなかったのさ。君を好きだから、君を離し・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ 出て見ると、照子は相変らず白粉けのない、さばさばした様子で、何のこだわりもなく「今日は――いつぞやは有難うございました」と挨拶した。愛は、楽な心持になった。「どうなすって? あの晩、電車ぎりぎりだったでしょう」「ええも・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
出典:青空文庫