・・・』 主人の声の方が眠そうである、厨房の方で、『吉蔵はここで本を復習ていますじゃないかね。』 お婆さんの声らしかった。『そうかな。吉蔵もうお寝よ、朝早く起きてお復習いな。お婆さん早く被中炉を入れておやんな。』『今すぐ入れて・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・元来其頃は非常に何かが厳重で、何でも復習を了らないうちは一寸も遊ばせないという家の掟でしたから、毎日々々朝暗いうちに起きて、蝋燭を小さな本箱兼見台といったような箱の上に立てて、大声を揚げて復読をして仕舞いました。そうすれば先生のところから帰・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・僕下らなく遊んでいたんじゃない、学校の復習や宿題なんかしていたんだけれど。 ここに至って合点が出来た。油然として同情心が現前の川の潮のように突掛けて来た。 ムムウ。ほんとのお母さんじゃないネ。 少年は吃驚して眼を見張って自分の顔・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・どッとゝ番町今井谷を下りまして、虎ノ門を出にかゝるとお刺身にお吸物を三杯食ったので胸がむかついて耐りませんから、堀浚いの泥と一緒に出ていたを、其の方がだん/″\掻廻したので泥の中から出たんで、全く天から其の方に授かったところの宝で、図らず獲・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・ここは何とかして、愚色を装い、「本日は晴天なり、れいの散歩など試みしに、紅梅、早も咲きたり、天地有情、春あやまたず再来す」 の調子で、とぼけ切らなければならぬ、とも思うのだが、私は甚だ不器用で、うまく感情を蓋い隠すことが出来ないたち・・・ 太宰治 「作家の像」
・・・ あくる日の夜、白石は通事たちを自分のうちに招いて、シロオテの言うたことに就き、みんなに復習させた。白石は万国の図がはずかしめられたのを気にかけていた。切支丹屋敷にオオランド鏤版の古い図があるということを奉行たちから聞き、このつぎの訊問・・・ 太宰治 「地球図」
・・・その最後の条に、夫が病気で非常な苦悶をするのを見たすぐあとで、しかも夫の眼前で鏡へ向かってその動作の復習をやる場面がある。夫がそれを見てお前は芸術家だ、恋はできないと言って突きとばすのでおしまいになっている。K君はこれを読んだ時にあまりに不・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・を復習しながら、子供のように他愛のない笑いを車内の片隅の暗闇の中で笑っている自分を発見したのであった。 緊張のあとに来る弛緩は許してもらってもいいであろう。そのおかげでわれわれは生きて行かれるのである。伸びるのは縮まるためであり、縮むの・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ 学校へ出ている子等は毎朝復習をしていた。まだ幼稚園の冬子はその時間中相手になってくれる人がないので、仲間はずれの佗しさといったようなものを感じているらしかった。それで自分も祖母の膝の前へ絵雑誌などをひろげてやはり一種の復習をしている事・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・しかし、それでもいいからと云われるので、ではともかくもなるべくよく読み返してみてからと思っているうちに肝心な職務上の仕事が忙しくて思うように復習も出来ず、結局瑣末な空談をもって余白を汚すことになったのは申訳のない次第である。読者の寛容を祈る・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
出典:青空文庫