・・・卒業試験の前のある日、灯ともしごろ、復習にも飽きて離れの縁側へ出たら栗の花の香は慣れた身にもしむようであった。主家の前の植え込みの中に娘が白っぽい着物に赤い帯をしめてねこを抱いて立っていた。自分のほうを見ていつにない顔を赤くした・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・こういうのはおそらくその後何かの機会に何遍となく同じ記憶の復習をし修繕を加えて来たために三十年後の今日まで保存されているのであろう。 その婆さんの鼻の動く工合までも覚えているような気がするのである、これもはなはだ官能的である。 武雄・・・ 寺田寅彦 「二つの正月」
・・・そこで平生はあまり勉強しなかった自分もいささかかんしゃくを起こして、熱心に勉強したが、それとて他の人と異なった、図抜けた勉強をしたわけではなく、規則立って学課の復習、受験の準備に努めたのでもない。いわば世間並み、普通の事をやっていたというに・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・昔は Monsieur de Voltaire, Monsieur de Buffon だなんと云って、ロオマンチック派の文士が冷かしたものだが、ピエエルなんぞはたしかにあのたちの貴族的文士の再来である。 オオビュルナン先生は最後に書い・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・南向うの家には尋常二年生位な声で本の復習を始めたようである。やがて納豆売が来た。余の家の南側は小路にはなって居るが、もと加賀の別邸内であるのでこの小路も行きどまりであるところから、豆腐売りでさえこの裏路へ来る事は極て少ないのである。それでた・・・ 正岡子規 「九月十四日の朝」
・・・とか、「再来」とか、「奮励」とか書くのでした。学生はその間、いかにも心配そうに首をちぢめているのでしたが、それからそっと肩をすぼめて廊下まで出て、友だちにそのしるしを読んでもらって、よろこんだりしょげたりするのでした。 ぐんぐん試験が済・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ シャァロンというばけものの高利貸でさえ、ああ実にペンネンネンネンネン・ネネムさまは名判官だ、ダニーさまの再来だ、いやダニーさまの発達だとほめた位です。 ばけもの世界長からは、毎日一つずつ位をつけて来ましたし、勲章を贈ってよこしまし・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・そう本ものの美術観賞家とも生れついていまい若者は、傍でそれ等テクニカル・タームの数々を耳に浚い込む。文学青年という熟語があれば、奈良の若僧中には、美術青年がある。無礼を顧ずいえば、彼等は僧として、高邁な信仰を得ようとする熱意も失っていると同・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・そこへ息子の復習を見てやりに行ったのが機会となって、バルザックは当時二十歳以上年上であった夫人と結ばれたのである。 バルザックにとってこの結合は初恋であり、ベルニィ夫人にとっては最後の恋であった。この結合において、若いバルザックの受けた・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫