・・・遠見に淡く海辺風景を油絵で描き、前に小さい貝殼、珊瑚のきれはし、海草の枝などとり集めて配合した上を、厚く膨んだ硝子で蓋したものだ。薄暗い部屋だから、眼に力をこめて凝視すると、画と実物の貝殼などとのパノラマ的効果が現れ、小っぽけな窓から海底を・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・ 著述業 四 二 一〇 四 ― 二 六 教員 八 三 三 ― 一 二 一七 無職 六 四 四 ― 一 四 六 其他 一一 一二 三五 一 ― 八 二〇 僧侶・・・ 宮本百合子 「春遠し」
・・・産前産後四ヵ月の有給休暇。無料産院。托児所。出産仕度金は月給の半額まで支給され、ソヴェト同盟の労働法は姙娠五ヵ月以上の婦人労働者と、生れて十ヵ月未満の赤坊を抱えた婦人労働者は、殆んど絶対に解雇することは許されない。 こないだまでの世の中・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・ メーデーに要求しているように、婦人のために給料つきの生理休暇と産前産後八十日の給料つきの休暇があらゆる職場で実現したら、今日結婚したために働けなくなった婦人たちの、どんな大きい救いでしょう。子もちの寡婦の苦しい生活と、労働条件のわるさ・・・ 宮本百合子 「メーデーと婦人の生活」
・・・メーデーの共同のスローガンの中には、働く婦人の要求として、同一労働同一賃銀がかかげられたし、産前・産後の有給休暇の要求も示されていた。これらの当然な要求は、働く婦人の実力でこそ、実現されるものである。 宮城前から首相官邸前にさしかかった・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
・・・ 病室が三つある。産後のやつれは見せているが、一様に穏やかな満足げな目附をした母親たちが、カーテンで程よく外光を調節した寝台に休んでる。或るものは起きかえり、自分のダブダブな上っぱり姿を眺めて笑っている。 赤坊たちは、母親とは別室だ・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・同一労働に対して男女同額の賃銀、産前産後四ヵ月の月給つき休暇、無料産院と、工場に托児所。国庫全額負担による小学校教育等が実現されたのである。十八歳になれば男も女も選挙権を持つようになった。 レーニンが革命後間もなくモスクワの婦人労働者会・・・ 宮本百合子 「ロシア革命は婦人を解放した」
・・・西鶴の短篇小説の中には、大坂や江戸の大商人の妻や娘が、どんなに贅を極めた服装をし、帯に珊瑚をつけ、珍らしい舶来の呉絽服綸の丸帯をつくり、高価な頭飾りをつくったかということが、こまごまと書かれている。金銭出納細目帳のようにまで書かれている。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ この七顆の珊瑚の珠を貫くのは何の緒か。誰が連れて温泉宿には来ているのだろう。 漂う白雲の間を漏れて、木々の梢を今一度漏れて、朝日の光が荒い縞のように泉の畔に差す。 真赤なリボンの幾つかが燃える。 娘の一人が口に銜んでいる丹・・・ 森鴎外 「杯」
・・・須磨子は三年前に飫肥へ往ったので、仲平の隠家へは天野家から来た謙助の妻淑子と、前年八月に淑子の生んだ千菊とがついて来た。産後体の悪かった淑子は、隠家に来てから六箇月目に、十九で亡くなった。下総にいた夫には逢わずに死んだのである。 仲平は・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫