・・・疑うものは、志賀直哉、佐藤春夫、等々を見るがよい。それでまた、いいのだとも思う。ヨーロッパの大作家は、五十すぎても六十すぎても、ただ量で行く。マンネリズムの堆積である。ソバでもトコロテンでも山盛にしたら、ほんとうに見事だろうと思われる。藤村・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・といったような顔をして、まるで歯牙にかけないで、マニキュアを続けているのである。この場面が、あとの「氷をもって来い」でフラッシュバックされて観客の頭の中に浮かぶ。 この「氷を持って来い」が結局大事件の元になっておやじはピエールに二階から・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・一代前の云い置きなどを歯牙にかける人はありそうもない。 しかし困ったことには「自然」は過去の習慣に忠実である。地震や津浪は新思想の流行などには委細かまわず、頑固に、保守的に執念深くやって来るのである。紀元前二十世紀にあったことが紀元二十・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・ もとより高尚なる理論上よりいえば、位階勲章の如き、まことに俗中の俗なるものにして、歯牙にとどむべきに非ずというといえども、これはただ学者普通の公言にして、その実は必ずしも然らず。真実に脱俗して栄華の外に逍遥し、天下の高処におりて天下の・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・この一段に至て、かえりみて世上の事相を観れば、政府も人事の一小区のみ、戦争も群児の戯に異ならず、中津旧藩のごとき、何ぞこれを歯牙に止るに足らん。 彼の御広間の敷居の内外を争い、御目付部屋の御記録に思を焦し、ふつぜんとして怒り莞爾として笑・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・日本資本主義高揚期であった明治末及び大正時代に活動しはじめた永井荷風、志賀直哉、芥川龍之介、菊池寛、谷崎潤一郎その他の作家たちは、丁度それぞれの段階での活動期を終ったときだった。これらの作家たちは無産階級運動とその芸術運動の擡頭しはじめた日・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・リアリズムの手法としては、志賀直哉のリアリズムが、洋画史におけるセザンヌの位置に似た存在を示してきた。 一九一八年第一次世界大戦終了の後、日本にも国際的な社会変化の波濤がうちよせ、人間性の展開および文学の発展の基盤としての社会性の問題が・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 二 数年前のことであった。志賀直哉氏が何かの場合に、自分は思想としてのマルクス主義に反対はしないが、その中で働いている人間をいきなり尊敬することは出来ない、という意味を語ったのを間接にきいた。 いかに・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・その点やっぱり志賀直哉のすじを引いていると云えるんじゃないかな」「志賀さんが男で、あれだけの天分と、経済力とをもって自分の境地を守り得るのと、一人の女の作家が、いまの世の中でめぐり合うものとは、全くちがうんじゃないでしょうか。防ぎきれる・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
先だっての新聞は元新興キネマの女優であった志賀暁子が嬰児遺棄致死の事件で、公判に附せられ、検事は実刑二年を求刑した記事で賑わいました。出廷する暁子として、写真も大きく載せられ、裁判所は此一人の女優の生涯に起った悲しい出来事・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
出典:青空文庫