・・・全文省略 八唱 憤怒は愛慾の至高の形貌にして、云々「ちょっと旅行していました留守に原稿やら、度々の来信に接して、失礼しました。が、原稿は相当ひどい原稿ですね。あれでは幾らひいき目に見ても使えません。書き直して貰っても・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・いわんや、その性善にして、その志向するところ甚だ高遠なるわが黄村先生に於いてをやである。黄村先生とは、もとこれ市井の隠にして、時たま大いなる失敗を演じ、そもそも黄村とは大損の意かと疑わしむるほどの人物であるけれども、そのへまな言動が、必ずわ・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・芸術界も、やっぱり同じ生活競争であった。思考をやめよ! 負けては、ならぬ。どんぐりの背並べ。 一路、生活の、謂わば改善に努力して、昨今の私は、少し愚かしくさえなっている。行動は、つねに破綻の形式を執る。かならず一方に於いて、間抜けている・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・王子には、この育ちの違った野性の薔薇が、ただもう珍らしく、ひとつき、ふたつき暮してみると、いよいよラプンツェルの突飛な思考や、残忍なほどの活溌な動作、何ものをも恐れぬ勇気、幼児のような無智な質問などに、たまらない魅力を感じ、溺れるほどに愛し・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 音楽に対する嗜好は早くから眼覚めていた。独りで讃美歌のようなものを作って、独りでこっそり歌っていたが、恥ずかしがって両親にもそれは隠して聞かせなかったそうである。腕白な遊戯などから遠ざかった独りぼっちの子供の内省的な傾向がここにも認め・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・であり「思考する色彩」であるかと思われるのである。 化学的薬品よりほかに薬はないように思われた時代の次には、昔の草根木皮が再びその新しい科学的の意義と価値とを認められる時代がそろそろめぐって来そうな傾向が見える。いよいよその時代が来るこ・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・あるいは、もう少し厳密にいえば、かりにそういう実験をしたらこういう結果が起こるでもあろうかという、一種の思考実験の結果の発表であるともいわれるであろう。そういう見方からすれば、この映画は、女子教育家や女児の心理の研究者にとってはなはだ特殊な・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・何よりも、フランス映画らしい、あくの抜けたさわやかさが自分の嗜好に訴えて来る。 汽車でアーヴルに着いてすっかり港町の気分に包まれる、あの場面のいろいろな音色をもった汽笛の音、起重機の鎖の音などの配列が実によくできていて、ほんとうに波止場・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・自分の目にはいわば一つの共産労働部落といったようなものに関する「思考実験」の報告とでもいったようなものが全編の中に織り込まれているように思われる。それでそういう事に特に興味のある人たちにはその点がおもしろいのかもしれないが主として詩と俳諧と・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・また反対に零細のスケッチを無価値として軽侮する人もあるかもしれないが、科学というものの本来の目的が知識の系統化あるいは思考の節約にあるとすれば、まずこれらのスケッチを集めこれを基として大きな製作をまとめ渾然たる系統を立てるのが理想であろう。・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
出典:青空文庫