・・・何か人生的な、何か社会の指針的な、何か誠実な生きてゆく人間の姿の表現を、読者は山本有三氏に求めている。山本有三氏と読者との結びつきは、どこか只面白い小説という以上のものに対する暗黙の契約の上に立っているように見えるのである。そして、このこと・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・その形式が座談になっているのは、その席で礼を言えば済む。私信になっているのは、礼状を遣れば済む。公開書になっているのも、罵詈がしてあれば、棄て置いても好い。あるいは棄て置くのが最紳士らしいかも知れない。また先方にも過誤がある場合には、それを・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・うぬぼれや虚栄心や猜みなどのような私心を去らなくては、この「明」は得られないのであるが、ひとたび大将がこの明を得れば、彼の率いる武士団は、強剛不壊のものになってくる。ということは、道義的性格の尊重が彼の武士団を支配するということなのである。・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫