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・・・しかし舟が、葉や花を水に押し沈めながら進んで行くうちに、何となく周囲の様子が変わってくる。いつの間にか底紅の花の群落へ突入していたのである。花びらの底の方が紅色にぼかされていて、尖端の方がかえって白いのであるが、花全体として淡紅色の加わって・・・
和辻哲郎
「巨椋池の蓮」
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・・・ 私は固い腰掛けに身を沈めて、先ほどまでの小さい出来事を思い返した。一々の瞬間にそうならなければならないある者がひそんでいるようにも思えた。すべての条件が最後の瞬間を導き出すように整然たる秩序の内に継起したようにも感じられた。そうして私・・・
和辻哲郎
「停車場で感じたこと」