・・・いろいろな事象がそれ自身の収拾つかない課題の生々しい断面をむき出しながら、益々幅と量とをましながら奔流しつつ十二月が来ている。 日々の生活感情がそのようだし、十二月号の雑誌をいくつか見ると、従来なら吉例的にたとえ外面からのことは承知でも・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ 今日の図書館員の目から見れば、此那大ざっぱな、まとまりのない目録は稚拙の極で、小規模の箇人蒐集をまとめる役にも立たないように思えるに違いない。けれども、私にこの部門の配列の順序その他は、何となく分業以前の人間の暖さ、正直さ、真実さのほ・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・ある夏の夜御飯によばれ、古田中氏も微醺を帯びて、夫人の蒐集して居られる大小様々の蛙の飾りをおもしろく見たこともある。このお宅の頃は、数度上った。そして、何ということもない雑談の間に、夫人が西村家の明治時代らしく、大づかみで活溌な日常生活の中・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・だけれども、それは現在その地方でも実用には使われていないという風なものを蒐集して、仮に客間の壁にかけて置くという趣味が、果して美しさに敏感な心と云えるだろうか。 又、外国の宮殿を見ると、よく支那の間とか、トルコの間とかいう室がつくられて・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・ 帝国芸術院に対する一般の気受けについては、現在各人の胸に活きているものであるから姑くいわず、ただ、芸術院賞というようなものを制定したら、収拾し得ない紛糾をまき起す内部の事情であろうということは誰しも推察するにかたくないのである。 ・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・それらの人々から断片的にあつめたインフォーメエションの上に立ち、而も作家としての立場からそれらの情報、説明を現実に照らし合わせて正当に判断するだけの力はない作者の無知が、言葉の綾では収拾つかぬ程度にまで作品の生地に露出している。それだけであ・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・慶長四年の『孔子家語』、『六韜三略』の印行を初めとして、その後連年、『貞観政要』の刊行、古書の蒐集、駿府の文庫創設、江戸城内の文庫創設、金沢文庫の書籍の保存などに努めた。そうして慶長十二年には、ついに林羅山を召し抱えるに至った。家康がキリシ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・それを聞いていて私は原三渓の蒐集品を見せたくなったのである。三渓の蒐集品は文人画ばかりでなく、古い仏画や絵巻物や宋画や琳派の作品など、尤物ぞろいであったが、文人画にも大雅、蕪村、竹田、玉堂、木米などの傑れたものがたくさんあった。あれを見たら・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫