・・・ これらの戦争に関連した諸々の際物的流行は、周知の如く、文学作品として、歴史の批判に堪え得なかったばかりでなく、当時の心ある批評家から軽蔑された。第三章 日清戦争に関連して ―独歩の「愛弟通信」と蘆花の「不・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・若き兵士たり、それから数行の文章の奥底に潜んで在る不安、乃至は、極度なる羞恥感、自意識の過重、或る一階級への義心の片鱗、これらは、すべて、銭湯のペンキ絵くらいに、徹頭徹尾、月並のものである。私は、これより数段、巧みに言い表わされたる、これら・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・彼のいやらしい親切に対する憤怒よりも、おのれの無智に対する羞恥の念がたまらなかった。「泣くのはやめろよ。どうにもならぬ。」彼は私の背をかるくたたきながら、ものうげに呟いた。「あの石塀の上に細長い木の札が立てられているだろう? おれたちに・・・ 太宰治 「猿ヶ島」
・・・から出てしまったのであるが、宿へ帰って、少しずつ酔のさめるにつれ、先刻の私の間抜けとも阿呆らしいともなんとも言いようのない狂態に対する羞恥と悔恨の念で消えもいりたい思いをした。湯槽にからだを沈ませて、ぱちゃぱちゃと湯をはねかえらせて見ても、・・・ 太宰治 「断崖の錯覚」
・・・ただ、もやもや黒煙万丈で、羞恥、後悔など、そんな生ぬるいものではなかった。笠井さんは、このまま死んだふりをしていたかった。「幾時の汽車で、お発ちなのかしら。」ゆきさんは、流石に落ちつきを取りもどし、何事もなかったように、すぐ言葉をつづけ・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・ この子の瞳の青さを笑うな。羞恥深き、いまだ膚やわらかき赤子なれば。獅子を真似びて三日目の朝、崖の下に蹴落すもよし。崖の下の、蒲団わするな。勘当と言って投げ出す銀煙管。「は、は。この子は、なかなか、おしゃまだね。」 知識人の・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ら私の眉間のあたりで舞い狂う、あの無量無数の言葉の洪水が、今宵は、また、なんとしたことか、雪のまったく降りやんでしまった空のように、ただ、からっとしていて、私ひとりのこされ、いっそ石になりたいくらいの羞恥の念でいたずらに輾転している。手も届・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・デカルトあながちぼんくらじゃないと思ったのだが、「羞恥とはわれに益するところあらむと願望する情の謂いである。」もしくは、「軽蔑とはわれに益するところあらむと云々。」といった工合いに手当りしだいの感情を、われに益する云々てう句に填め込んでいっ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・また女は、羞恥を知り、慎みて宜しきに合う衣もて己を飾り、編みたる頭髪と金と真珠と価たかき衣もては飾らず、善き業をもて飾とせん事を。これ神を敬わんと公言する女に適える事なり。女は凡てのこと従順にして静かに道を学ぶべし。われ、女の、教うる事と、・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・このいたずらを利用したものの例としては三角測量の際に遠方の三角点から光の信号を送るへリオトロープがあり、その他色々な光束が色々の信号に使われるのは周知のことである。自分の子供の時分に屋内の井戸の暗い水底に薬鑵が沈んだのを二枚の鏡を使って日光・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
出典:青空文庫