・・・七左 はあ、香花、お茶湯、御殊勝でえす。達者でござったらばなあ。村越 七左 おふくろどの、主がような後生の好人は、可厭でも極楽。……百味の飲食。蓮の台に居すくまっては、ここにもたれて可うない。ちと、腹ごなしに娑婆へ出て来て、嫁御・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・参詣人が来ると殊勝な顔をしてムニャムニャムニャと出放題なお経を誦しつつお蝋を上げ、帰ると直ぐ吹消してしまう本然坊主のケロリとした顔は随分人を喰ったもんだが、今度のお堂守さんは御奇特な感心なお方だという評判が信徒の間に聞えた。 椿岳が浅草・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・其結果、出版法だか新聞雑誌条例だかの一部が修正された。博文館は少くも世間を騒がし驚かした一事に於て成功した。小生は此の「大家論集」の愛読者であった。小生ばかりでなく、当時の貧乏なる読書生は皆此の「大家論集」の恩恵を感謝したであろう。 博・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ 為さんは小机の前にいざり寄って、線香を立て、鈴を鳴らして殊勝らしげに拝んだが、座を退ると、「お寂しゅうがしょうね?」と同じことを言う。 お光は喩えようのない嫌悪の目色して、「言わなくたって分ってらね」「へへ、そうですかしら。私・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ しかし、間もなく朦朧俥夫の取締規則が出来て、溝の側の溜場にも屡しばしばお手入れがあってみると、さすがに丹造も居たたまれず、暫らくまごまごした末、大阪日報のお抱え俥夫となった。殊勝な顔で玄関にうずくまり、言葉つきもにわかに改まって丁寧だ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・「ほう、そいつは殊勝だ」「もっとも市電がなかったので、背中の荷を軽くしなければ焼跡を歩いて帰れませんからね」「そんなことだろうと思ったよ。しかし、ついでにそのトランクもくれてやって来たのなら、なお良かったんだが……」「いや、・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・この要求からカントの倫理学を修正しようとするものが最近いわゆる実質的価値の倫理学である。『倫理学における形式主義の実質的価値倫理学』の著者であるマックス・シェーラーは初めオイケンに師事したが、フッサールの影響を受けて、現象学派の立場に移った・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・まことに殊勝の心がけの人だった。信長の時になると、もう信長は臣下の手柄勲功を高慢税額に引直して、いわゆる骨董を有難く頂戴させている。羽柴筑前守なぞも戦をして手柄を立てる、その勲功の報酬の一部として茶器を頂戴している。つまり五万両なら五万両に・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ん昔おもえば見ず知らずとこれもまた寝心わるく諦めていつぞや聞き流した誰やらの異見をその時初めて肝のなかから探り出しぬ 観ずれば松の嵐も続いては吹かず息を入れてからが凄まじいものなり俊雄は二月三月は殊勝に消光たるが今が遊びたい盛り山村君ど・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ 摂政宮殿下には災害について非常に御心痛あそばされ、当日ただちに内田臨時首相をめし、政府が全力をつくして罹災者の救護につとめるようにおおせつけになりました。二日の午後三時に政府は臨時震災救護事務局というものを組織し、さしあたり九百五十万・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
出典:青空文庫