・・・スバーが、それを噛めるようにしてやる そうやって長いこと坐り、釣の有様を見ている時、彼女は、どんなにか、プラタプの素晴らしい手伝い、真個の助けとなって、自分が此世に只厄介な荷物ではないことを証拠だてたく思ったでしょう! けれども、何もす・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・いて、けれども兄の鬼面毒笑風の趣味が、それを素直に悲しむことを妨げ、かえって懸命に茶化して、しさいらしく珠数を爪繰っては人を笑わせ、愚僧もあの婦人には心が乱れ申したわい、お恥かしいが、まだ枯れて居らん証拠じゃのう、などと言い、私たちを誘って・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・わが名は安易の敵、有頂天の小姑、あした死ぬる生命、お金ある宵はすなわち富者万燈の祭礼、一朝めざむれば、天井の板、わが家のそれに非ず、あやしげの青い壁紙に大、小、星のかたちの銀紙ちらしたる三円天国、死んで死に切れぬ傷のいたみ、わが友、中村地平・・・ 太宰治 「喝采」
・・・それだけならいいんですが、地方の出張所にいる連中、夫婦ものばかりですし、小姑根性というのか、蔭口、皮肉、殊に自分のお得意先をとられたくないようで、雑用ばかりさせるし、悪口ついでにうんとならべると、女の腐ったような、本社の御機嫌とりに忙しい、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・少なくも彼の頭が鉄と石炭ばかりで詰まっていない証拠にはなるかと思う。 彼はまだこれからが働き盛りである。彼が重力の理論で手を廻さなかった電磁気論は、ワイルによって彼の一般相対性原理の圏内に併合されたようである。これが成効であるとして・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・しかしこれらの記録中でおもしろいと思わるるのは、ある書では笛の音がよく反響しないとあり、他書には鉦鼓鈴のごときものがよく響かないとある事である。笈埃随筆では「この地は神跡だから仏具を忌むので、それで鉦や鈴は響かぬ」という説に対し、そ・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・弟は妻のために、お絹姉さんを、少し文句の多すぎる小姑だと思っていた。 しかし、お絹は、ここでもあまりおひろと気の合った方ではなかった。おひろには森さんがあった。次ぎのお京には、青物問屋の旦那があった。「けれども、たまに行けばお互いに・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・と叫んだのは、その証拠である。彼らはかくして笑を含んで死んだ。悪僧といわるる内山愚童の死顔は平和であった。かくして十二名の無政府主義者は死んだ。数えがたき無政府主義者の種子は蒔かれた。彼らは立派に犠牲の死を遂げた。しかしながら犠牲を造れるも・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・論より証拠、先ず試みに『詩経』を繙いても、『唐詩選』、『三体詩』を開いても、わが俳句にある如き雨漏りの天井、破れ障子、人馬鳥獣の糞、便所、台所などに、純芸術的な興味を托した作品は容易に見出されない。希臘羅馬以降泰西の文学は如何ほど熾であった・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ただ疑の積もりて証拠と凝らん時――ギニヴィアの捕われて杭に焼かるる時――この時を思えばランスロットの夢はいまだ成らず。 眠られぬ戸に何物かちょと障った気合である。枕を離るる頭の、音する方に、しばらくは振り向けるが、また元の如く落ち付いて・・・ 夏目漱石 「薤露行」
出典:青空文庫