・・・、修行中で、どう工面の成ろうわけはないのに、一ツ売り二つ売り、一日だてに、段々煙は細くなるし、もう二人が消えるばかりだから、世間体さえ構わないなら、身体一ツないものにして、貴下を自由にしてあげたい、としょっちゅうそう思っていらしったってね。・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・かわいがったのを恩に着せるではないが、もとを云えば他人だけれど、乳呑児の時から、民子はしょっちゅう家へきて居て今の政夫と二つの乳房を一つ宛含ませて居た位、お増がきてからもあの通りで、二つのものは一つ宛四つのものは二つ宛、着物を拵えてもあれに・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・「おいらはそんなことを言わなくたって、お上さんにゃしょっちゅう小使いを貰ってらあ」「ちょ! 芝居気のねえ野郎だな」と独言ちて、若衆は次の盤台を洗い出す。 しばらくするとまた、「こう三公」「何だね? 為さん」「そら、こない・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ 新次はしょっちゅう来馴れていて、二つ井戸など少しも珍らしくないのでしょう、しきりに欠伸などしていたが、私はしびれるような夜の世界の悩ましさに、幼い心がうずいていたのです。そして前方の道頓堀の灯をながめて、今通ってきた二つ井戸よりもなお・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・私はしょっちゅう尻尾を出している人間で、これから先もどんな醜態を演じて、世間の物わらいの種になるか、知れたものではないが、しかし、すくなくとも女から別れ話を持ち出されて泣きだすような醜態だけは、もはや見せることもあるまいと思われる。 そ・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・ほんとうにしょっちゅう腹を立てて、自分でもあきれるくらい、自分がみじめに見えたくらい、また、あの人が気の毒になったくらい、けれど、あの人もいけなかった。 婚約してから式を挙げるまで三月、その間何度かあの人と会い、一緒にお芝居へ行ったり、・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・たいしたものだと梅ちゃんの母親などはしょっちゅううらやんでいるくらいで。『そんならこちらでも水車をやったらどうだろう、』と先生に似合わないことをある時まじめで言いだした。『幸ちゃんとこのようにですか、だってあれは株ですものう、水車が・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・「叔母さんが碁をお打ちになることは、僕ちっとも知りませんでした。」「わたしですか、わたしはこれでずいぶん古いのですよ。」と叔母は言ったが振り向きもしない。「しょっちゅう打っていらっしゃったのですか。」「いいえ、やたらに打ちだ・・・ 国木田独歩 「二老人」
いろ/\なものを読んで忘れ、また、読んで忘れ、しょっちゅう、それを繰りかえして、自分の身についたものは、その中の、何十分の一にしかあたらない。僕はそんな気がしている。がそれは当然らしい。中には、毒になるものがあるし、また、・・・ 黒島伝治 「愛読した本と作家から」
・・・機関車は薪がつきて、しょっちゅう動かなくなった。彼は二カ月間顔を洗わなかった。向うへ着いた時には、まるで黒ン坊だった。息が出来ぬくらいの寒さだった。そして流行感冒がはやっていた。兵営の上には、向うの飛行機が飛んでいた。街には到るところ、赤旗・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
出典:青空文庫