・・・ 十一日にりよは中奥目見に出て、「御紋附黒縮緬、紅裏真綿添、白羽二重一重」と菓子一折とを賜った。同じ日に浜町の後室から「縞縮緬一反」、故酒井忠質室専寿院から「高砂染縮緬帛二、扇二本、包之内」を賜った。 九郎右衛門が事に就いては、酒井・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・むなぐらを振り放し科に、持っていた白刃を三右衛門に投げ付けて、廊下へ逃げ出した。 三右衛門は思慮の遑もなく跡を追った。中の口まで出たが、もう相手の行方が知れない。痛手を負った老人の足は、壮年の癖者に及ばなかったのである。 三右衛門は・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・その声と共に、伊織の手に白刃が閃いて、下島は額を一刀切られた。 下島は切られながら刀を抜いたが、伊織に刃向うかと思うと、そうでなく、白刃を提げたまま、身を飜して玄関へ逃げた。 伊織が続いて出ると、脇差を抜いた下島の仲間が立ち塞がった・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・六郎が祖父は隠居所にありしが、馳出でて門のあきたるを見て、外なる狼藉者を入れじと、門を鎖さんとせしが、白刃振りて迫られ、勢敵しがたしとやおもいけん、また隠居所に入りぬ。六郎が母を殺しし人は、今もながらえたり。六郎が父殺しし人の、一瀬なりしこ・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫