・・・物と紫色の帯と、これだけが見えるばかり、そして恰も上から何か重い物に、圧え付けられるような具合に、何ともいえぬ苦しみだ、私は強いて心を落着けて、耳を澄して考えてみると、時は既に真夜半のことであるから、四隣はシーンとしているので、益々物凄い、・・・ 小山内薫 「女の膝」
・・・と四隣へ気を兼ねながら耳語き告ぐ。さすがの女ギョッとして身を退きしが、四隣を見まわしてさて男の面をジッと見、その様子をつくづく見る眼に涙をにじませて、恐る恐る顔を男の顔へ近々と付けて、いよいよ小声に、「金さん汝情無い、わたしにそんな・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・ 夜になって、四隣が静まると、母は帯を締め直して、鮫鞘の短刀を帯の間へ差して、子供を細帯で背中へ背負って、そっと潜りから出て行く。母はいつでも草履を穿いていた。子供はこの草履の音を聞きながら母の背中で寝てしまう事もあった。 土塀の続・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・それからだんだん議論に花が咲いて壮語四隣を驚かすと云う騒ぎであったそうな。元来この家は神さんの名前でかりている。ところが七年前に少々家賃を滞おらしたのが今日まで祟っていて出る事ができん。しかも彼の財産は早晩家賃のかたに取られるという始末だ。・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
出典:青空文庫