・・・幕が上ると中央から少し下手によった所に置いてある腰掛にたった一人第一の女が何をするともなしにつたの赤く光るのを見て居る。かなり富んだらしい顔つきをして大変に目の大きい女。深紅の着物のあさい襞を正しくつけたのをきて、白い頭巾をぴっ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・俳諧の流行そのものが、云ってみれば新興の文化であり、商人と一般庶民階級の自在な感情表現の欲求にその地盤をおいた文学であった。談林派の俳諧というものは、その先達であった貞門と同じように俳諧を滑稽の文学と見ており、談林は詩型のリズムに自由を求め・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・ ベルニィ夫人の生活は、その時既に新興ブルジョアと成上り貴族によって経済的に圧迫された貴族、人知れずやりくりに心を労し「小作人、家政のうんざりする細々したこと」に自ら煩わされなければならない、落魄に瀕した旧貴族階級の典型のようなものであ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・は、ともかくその内容も、様式も世界文学に類のないものだから、あれがいちばんいいと考えて、外務省の国際文化振興会ですか、ああいうところで「源氏物語」をいろいろな形で断片的にも紹介しました。この間ソヴェトの作家シーモノフ氏に会いましたとき、日本・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・早くからドイツやフランスに住み、カール・リープクネヒトなどと親交のあった大学教授レイスネルの家庭には、革命に対する真面目な関心があって、「十月」の頃ラリーサはまだ二十三歳だった。が、小さい時から革命的影響をうけていた彼女は「十月」と同時に、・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・三木清氏等によって、明治以来、政府は文化政策というのを持たなかったと云われ、アカデミーの問題も今日そこのことからふれられているのであるが、明治初期から文化振興のための政策はなかったかもしれないが、その或る面を罰することには決して吝でなかった・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・「自分は故国にいる無限に多い他人――その他人の中でもよりよい人々の中の最初の人間と私との親交は、このようにして終った。」 この物語はゴーリキイにとって記憶から消えぬものであったと共に、今日の読者である私たちの心をも少なからず打つものがあ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・「自分は故国にいる無限に多い他人――その他人の中でもよりよい人々の中の最初の人間と私との親交は、このようにして終った。」 この物語はゴーリキイにとって記憶から消えぬものであったと共に、今日の読者である私たちの心をも少なからず打つものがあ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・そういう、日本の面と、能や端午の節句や桜花爛漫を撮影している国際文化振興会などの、日本紹介映画との間に、どういう血が通っているか。否、普通日本人と呼ばれている多数のものの平凡で苦労の多い実生活の裡にこの二面はどんな形で、どんな有機性で渾然と・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・ 企業家のサボタージュを罰することも、是正する力も失っているのに、労働運動取締りの四相声明を公表した当局は、「各種民需産業を振興」というが、どんな成算をもっているのだろうか。元大審院部長・元司法次官三宅正太郎という人が、中央労働委員会の・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
出典:青空文庫