・・・鴎外の賛成を得て話は着々進行しそうであったが、好書家ナンテものは蒐集には極めて熱心であっても、展覧会ナゾは気紛れに思立っても皆ブショウだからその計画も捗取らないでとうとう実現されなかった。(この咄については『明星』掲載当時或る知人から誤解で・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・少年時代からの親交であって度々鴎外の家に泊った事のある某氏の咄でも、イツ寝るのかイツ起きるのか解らなかったそうだ。 鴎外の花園町の家の傍に私の知人が住んでいて、自分の書斎と相面する鴎外の書斎の裏窓に射す燈火の消えるまで競争して勉強するツ・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・そんな事とは知らないから前に命ぜられた社員は着々進行して率ざ実現しようとなると、「アレはやめにした、」とケロリと冷ました顔をしている。自分ばかりが呆気に取られるだけなら我慢もなるが、社外の人に手数を掛けたり多少の骨折をさせたりした事をお関い・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・ 二葉亭の頭は根が治国平天下の治者思想で叩き上げられ、一度は軍人をも志願した位だから、ヒューマニチーの福音を説きつつもなお権力の信仰を把持して、“Might is right”の信条を忘れなかった。貴族や富豪に虐げられる下層階級者に同情・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・これ実に新興文芸の第一声であって、天下の青年は翕然として文学の冒険に志ざした。 当時の記憶は綿々として憶浮べるままを尽くいおうとすれば限りがない。その頃一と度は政治家たらんと欲し、転じて建築に志ざし、再転して今度は実業界に入ろうとした一・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・われわれが神の恩恵を享け、われわれの信仰によってこれらの不足に打ち勝つことができれば、われわれは非常な事業を遺すものである。われわれが熱心をもってこれに勝てば勝つほど、後世への遺物が大きくなる。もし私に金がたくさんあって、地位があって、責任・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・戦いに敗れて精神に敗れない民が真に偉大なる民であります、宗教といい信仰といい、国運隆盛のときにはなんの必要もないものであります。しかしながら国に幽暗の臨みしときに精神の光が必要になるのであります。国の興ると亡ぶるとはこのときに定まるのであり・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・実に母と子の関係は奇蹟と云っても可い程に尊い感じのするものであり、また強い熱意のある信仰である。そして、母と子の愛は、男と女の愛よりも更に尊く、自然であり、別の意味に於て光輝のあるもののように感ずる。 私は多くの不良少年の事実に就いては・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・ 生まれ変わるという信仰が、どれほど味気ない生活に活気をつけたかしれません。「死」ということがこんなに、このときほど意義のあることに思われたかわかりません。「死なずに幸福の島へ渡れないものだろうか。」 多くの人々の中には、身を海・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・ 以上を要約するに、現実に立脚した、奔放不覊なる、美的空想を盛り、若しくは、不可思議な郷土的な物語は、これを新興童話の名目の下に、今後必ずや発達しなければならぬ機運に置かれています。いまの児童の読物のあまりに杜撰なる、不真面目なる、・・・ 小川未明 「新童話論」
出典:青空文庫